「当日の下剤の味がどうしても無理なんです…」
「下剤の味がダメで途中で気持ち悪くなってしまいました…」
このように、大腸内視鏡検査当日の液体の下剤が苦手な方はいらっしゃるのではないでしょうか。
大腸内視鏡検査の前処置の下剤は、一般に液体タイプが基本です。
ただ、味やにおいがつらくて飲みきれない方も一定数いらっしゃいます。
前処置が不十分の場合、ポリープなどの病変の見落としや再検査につながるため、
液体の下剤の味がダメな方に、錠剤という選択肢もあります。
この記事では、錠剤タイプのメリット・デメリット、適応や注意点などについて専門医の視点からわかりやすく解説をしていきます。
この記事でわかること
- 大腸内視鏡の前処置下剤の基本
- 錠剤タイプという選択肢の概要とメリット・デメリット
- 錠剤タイプの向き・不向き
- 錠剤タイプの禁忌・注意点
- 受診施設での相談のポイントと実際の飲み方
ご注意:自己判断で当日の下剤の切り替えはせず、受診される医療機関で必ず相談をしてください。
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。
この記事は、草加西口大腸肛門クリニックの院長が専門医の立場から執筆しています。
結論|前処置は液体下剤が基本、味が無理な場合のみ錠剤タイプも検討
まずは、要点をシンプルにお伝えします。
- 大腸内視鏡検査の前処置は、液体下剤が基本
- 味やにおいが無理な場合は、錠剤タイプが選択肢になる
- 錠剤タイプの洗浄力は液体より弱いので、事前の食事管理がより重要
- 禁忌・注意があるため、自己判断の切り替えはNG
※前処置:事前の食事管理をしたり、専用の下剤を飲むことで、大腸の中をきれいにすること
大腸内視鏡検査の前処置下剤の基本
現在日本で発売されている下剤は、全部で6種類です。
| 液体の下剤 | 錠剤タイプの下剤 |
|---|---|
| マグコロール® | ビジクリア |
| モビプレップ® | |
| ピコプレップ® | |
| ニフレック® | |
| サルプレップ® |
液体が5つで、錠剤タイプの下剤は、ビジクリア®のみです。
大腸内視鏡検査の前処置で大切なのは、きれいな大腸にすることです。
大腸がきれいにならないと、ポリープなどの病変の見逃しにもつながります。

大腸をきれいに洗い流す洗浄力は、液体の下剤の方が錠剤タイプの下剤より強いです。
つまり、前処置の下剤の第一選択は液体の下剤です。
このため、錠剤タイプの下剤は、過去に内視鏡検査を受けている方で、
液体の下剤がどうしても飲めない場合に初めて検討されます。
錠剤タイプ(ビジクリア®)のメリット

錠剤タイプのビジクリアの最大のメリットは、水やお茶で服用ができ、味やにおいのストレスが小さいことです。
これにより、服用途中の嘔気・拒否感の軽減と、しっかりと下剤を飲み切れることが期待されます。
液体の下剤の洗浄力がどんなに強くても、しっかりと飲めなければ意味がありません。
液体下剤の味やにおいがだめで、下剤が最後までしっかりと飲めずに、
前処置が不十分になってしまった方は、ビジクリアを検討してみるのもありです。
検査当日の飲み物の詳細は、以下の記事をご覧ください。

錠剤タイプ(ビジクリア®)のデメリット・限界
唯一の錠剤タイプの下剤として貴重な存在のビジクリアですが、デメリットや限界もあります。
洗浄力が液体の下剤より劣る
ビジクリアの最大のデメリットは、洗浄力が液体の下剤より劣るということです。
洗浄力が劣ることで、大腸の中に便の残り(残渣)が増え、観察精度が落ちるリスクがあります。
当院でもビジクリアの方と、通常の液体の下剤の方の前処置状況を比較してみると、
液体の下剤の方が大腸がきれいになっている印象があります。
やはり、第一選択は、液体の下剤となります。
事前の食事の管理がより重要になる
ビジクリアの洗浄力は液体の下剤より落ちるため、事前の食事の管理が重要となります。
通常、便秘気味でない方の場合は、検査2日前は消化のいい食事、前日は検査食としていますが、
ビジクリアを使用する場合は、念のために検査3日前から消化のいい食事にした方が安全です。
また、日頃便秘気味の方は、検査の数日前から消化のいい食事にしたり、
事前の下剤を飲む日数を増やすなどの調整も必要となる場合もあるため、
検査を受ける医療機関で事前によく相談をしてください。
価格が高い
ビジクリアのデメリットの1つに、6種類の下剤の中で薬価が1番高いことがあります。
以下の表は、2025年10月時点での各下剤の薬価になります
| 薬剤名 | 薬価(定価) | 3割負担 |
|---|---|---|
| ビジクリア | 2,265円(50錠) | 679円 |
| ピコプレップ | 1,975円(2包) | 592円 |
| サルプレップ | 1,877円(2本) | 563円 |
| モビプレップ | 1,555円(1袋) | 466円 |
| マグコロール | 1,146円(100g+50g) | 343円 |
| ニフレック | 741円(1袋) | 222円 |
現在当院で採用しているマグコロールの約2倍、モビプレップの約1.5倍となっています。
通常の液体の下剤が飲める方は、費用の面からもあえてビジクリアを選択する必要はないと言えます。
採用していない医療機関がある
前処置下剤を院内処方している医療機関の場合、ビジクリアを採用していないケースもあります。
この場合は、院外処方となり薬局で薬をもらう必要があり、その分時間や費用がかかります。
ビジクリアが使えない人がいる
ビジクリアは全ての人に使えるわけではありません。
治療中の病気などによっては、
使用禁忌(重大な副作用を起こす可能性があるため禁じられていること)に相当する場合があります。
詳しくはこの後で説明をします。
錠剤タイプの下剤(ビジクリア®)が使えない方(使用禁忌)

ビジクリアは使用禁忌があり、
以下が、製薬会社からの「使用上の注意」情報です。

いろいろ書いてあり、わかりにくいのでまとめると以下になります。
ビジクリアが処方できない方
- 高血圧の高齢者(65歳以上)
- 腎臓が悪い方
- 心臓が悪い方
- 全身状態の悪い方
この中で、見落としがちなのが、高血圧の高齢者(65歳以上)の方です。
これはビジクリアが2007年に発売されてから2012年1月末までの間に、
ビジクリアの服用との関連性が否定できない重症な急性腎不全の副作用が39例報告されていて、
そのうち、高血圧の高齢者(65歳以上)が24例と全体の6割を占めたため、
急性腎不全のリスクがあるとして、高血圧の高齢者(65歳以上)は使用禁忌となりました。
また、ビジクリアは「低カリウム血症・高リン血症・低Ca血症などの電解質変動が起こりやすい」とされているため、腎機能が悪い方の場合は使用禁忌です。
その他、心臓が悪かったり、全身状態が悪い方も使用禁忌となります。
「液体の下剤がダメだから錠剤タイプがいい!」という方もいらっしゃると思いますが、
状況によっては使用禁忌に該当することもあります。
ビジクリアの使用を検討する際は、必ず検査を受ける医療機関で医師と相談をしてください。
受診施設での相談のポイント

過去の大腸内視鏡検査で、「液体の下剤の味やにおいがどうしても無理」だった方は、
検査を予約する際や、事前の外来の際に必ず伝えましょう。
施設によっては、錠剤タイプの下剤(ビジクリア)が選択できる場合があります。
まずは、受診前に以下の情報を整理しておきましょう。
予約や事前外来の前に整理しておく情報
- 過去の前処置歴(使用下剤名)
- 前回の前処置での腸の洗浄評価(検査の際に腸がきれいになっていたかどうか)
- 液体の下剤が飲めなかった理由(味・におい・量など)
- 治療中の病気(高血圧、心臓の病気、腎臓の病気など)
- 日頃の排便の様子(便秘気味か、便秘薬を使っているかなど)
あなたが、錠剤タイプの下剤を希望した場合には、
これらの情報を元に医師がビジクリアの処方が可能か判断をします。
ただ、あなたにビジクリアの投与禁忌となる項目が無く、投与可能な場合でも、
洗浄力という観点からお勧めができないケースもあります。
また、日頃便秘気味の方がビジクリアを服用する場合は、検査前の食事制限をより厳しくする必要もあります。
事前の相談の際に使えるフレーズの1例を挙げてみます。
事前の相談時に使えるフレーズの例
「前回、液体の下剤(薬剤名)の味がつらくて飲みきれず、腸がきれいになりませんでした。
水やお茶で飲める錠剤タイプの下剤があると聞いたのですが可能でしょうか?
ただ、日頃から便秘気味で便秘薬を飲んでいるので、腸がきれいになるか心配です。」
こんな感じで医師に伝えてもらえると、
ビジクリアを含めた下剤の選択肢について医師が提案してくれると思います。
錠剤タイプの下剤(ビジクリア®)の飲み方
ここからはビジクリアの実際の飲み方について説明をしていきます。
飲み方の詳細は医療機関によって異なりますので、検査を受ける医療機関の指示に従ってください。
検査当日のビジクリアの飲み方(草加西口大腸肛門クリニックでの場合)

以下は当院でご案内している検査当日のビジクリアの飲み方です。
- 来院時間の5–6時間前から内服を開始します。
- ビジクリア5錠を15分以内に200 mLの水またはお茶で数回に分けて内服します。
- これを15分ごとに、合計10回(50錠、2リットル)飲んでください。

- 喉がかわいた場合は、脱水予防のため、水・お茶は途中で追加してもOKです。
- スポーツドリンクなど、水とお茶以外の飲み物はNGです。
検査当日にいつまで水分をとってもいいかについては、以下の記事で詳しく説明しています。

- 途中で便意があった場合は排便し、下剤の内服を継続してください。

- 下剤の内服中は数回にわたって排便があり、便の状態は【固形→泥状→水様】に変化していきます。
- 「うすい黄色の水様便」となったら検査が可能ですが、途中で下剤の内服をやめるとまた便が泥状になることもあるので、下剤は全て飲み切ってください。
きれいな腸になるために重要なのは、50錠を2リットルの水/お茶でしっかりと飲み切るということです。
ただし、途中でどうしても気持ち悪くて飲めなかったり体調不良となった場合は、
無理して内服を継続せず、内服を中止して検査を受ける医療機関に連絡をしてください。
Q&A|錠剤タイプの下剤(ビジクリア®)に関するよくある質問
患者さんからよくいただく質問を10問にまとめました。気になる項目をご確認ください。
-
Q. どの医療機関でも錠剤(ビジクリア®)を選べるの?
A. 施設の方針によって変わります。予約時や事前の外来の際に必ず確認をしてください。
-
Q. 液体の下剤と錠剤タイプの効果は同じ?
A. 一般的には液体の下剤の方が洗浄力が強いです。このため、前処置下剤の基本は液体タイプです。錠剤タイプの下剤は、液体タイプの下剤の味やにおいがダメで飲めない方の場合に検討します。
-
Q. 錠剤タイプでも水分はたくさん必要なの?
A. はい、必要です。ビジクリア50錠を飲むのに、合計2リットルの水またはお茶が必要です。
-
Q. ビジクリア®を内服できない人(使用禁忌)は?
A. おおまかには、高血圧の高齢者(65歳以上)、腎臓の悪い方、心臓の悪い方、全身状態の悪い方です。使用禁忌でなくても「慎重投与」の条件もありますので、必ず医師と相談の上服用をしましょう。
-
Q. 高齢なだけならビジクリア®はOK?
A. 高齢者(65歳以上)は、慎重投与の対象となっていますので使用可否については医師の判断が必要となります。
-
Q. ビジクリアの場合、事前の食事制限はどうしたらいいの?
A. 液体の下剤よリ洗浄力が弱いことから、より腸に残りやすい食事(低残渣食)を徹底する必要があります。日頃便秘気味でない方でも、検査の3日くらい前からの低残渣食がお勧めです。
-
Q. ビジクリア®を50錠飲んでも便が透明になりません、どうしたらいいの?
A. まずは、検査を受ける医療機関に連絡をして、指示に従って行動をしてください。
-
Q. ビジクリア®を飲むとき、スポーツドリンクもOK?
A. NGです。ビジクリアの内服は、水またはお茶のみです。
-
Q. 妊娠・授乳中でもビジクリア®を飲んで大丈夫?
A. ビジクリアの添付文書では、
・妊娠中の場合:治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
・授乳中の場合:治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。
と記載があります。
皆さんが自分で判断することは危険なので、必ず医師に相談して判断をしてもらってください。 -
Q.日頃から便秘が強い場合は、錠剤タイプで大丈夫?
A. 錠剤タイプは液体の下剤より洗浄力が落ちるので、腸の洗浄が不十分になるリスクがあります。日頃から便秘が強い方の場合は、液体の下剤が推奨されます。どうしても液体の下剤が飲めない場合は、ビジクリア+食事制限を厳密に+数日前からの追加下剤の検討が必要となります。事前の相談の際に「日頃から便秘が強いこと」を必ず医師に伝えてください。
よくある質問を確認したところで、改めて記事全体のポイントを「まとめ」として整理しておきます。
まとめ

ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。
『大腸内視鏡検査当日の錠剤タイプの下剤』についてお分かりいただけましたでしょうか。
検査当日の下剤の基本は液体の下剤ですが、
液体の下剤の味やにおいが無理な方の場合は、錠剤タイプのビジクリアも検討されます。
しかし、
- 高血圧の高齢者
- 腎臓の悪い方
- 心臓の悪い方
- 全身状態の悪い方
の場合はビジクリアは使用できません。
前回の検査で、液体の味がどうしてもダメな方は、錠剤タイプのビジクリアが使えるかどうかを事前に確認をしてください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 皆様の病気の予防・早期発見・早期治療
- 皆様が大腸肛門科を受診する際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
当院の診療について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください
参考文献
- 斎藤 豊,岡 志郎,河村卓二,ほか.大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン.日本消化器内視鏡学会誌 2020; 62: 1519-1560
- Hung SY, Chen HC, Ke TW, et al. Noninferiority clinical trial comparing the bowel cleansing efficacy of sodium phosphate tablets (Quiklean®) with a polyethylene glycol/bisacodyl kit. World J Gastroenterologist. 2021; 27: 428-441
- Yao-Dong L, Yi-Ping W, Gang M, et al. Comparison of oral sodium phosphate tablets and polyethylene glycol lavage solution for colonoscopy preparation: a systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials. Front Med (Lausanne). 2023; 10:1088630. doi: 10.3389/fmed.2023.1088630.
- Reumkens A, van der Zander Q, et al. Electrolyte disturbances after bowel preparation for colonoscopy: Systematic review and meta-analysis. Dig Endosc. 2022; 34: 913-926
- 田辺正洋,正木久典.医療従事者に対する大腸内視鏡検査の前処置に関するアンケート調査.日本消化器がん検診学会雑誌 2021; 59: 531-545

