最近下痢が多く出血もするため、ネットで調べたら「潰瘍性大腸炎かもしれない」と不安になり来院される方もいらっしゃいます。
潰瘍性大腸炎は若い方がなることが多いのですが、50歳以降でも発症することもあります。
また、人口1000人に1人くらいの方がなるため、
大きな学校や会社であれば潰瘍性大腸炎で治療中の方が何人かいる可能性がありますし、皆さんの身近にもいらっしゃるかもしれません。
日頃は普通に生活できていても、病状が悪化した際には周囲の方の理解とサポートが必要になることもあります。
この記事を通して潰瘍性大腸炎のおおよそのことを知っていただき、
潰瘍性大腸炎についての皆様の疑問や不安が少しでも解消されるよう、
大腸肛門科医の視点からわかりやすく解説をしていきます。
この記事の内容
- 潰瘍性大腸炎とは?
- 潰瘍性大腸炎の原因
- 潰瘍性大腸炎の症状
- 潰瘍性大腸炎の検査・診断
- 潰瘍性大腸炎の治療
- 潰瘍性大腸炎になったときの食事
- 草加西口大腸肛門クリニックでの【潰瘍性大腸炎】の診療
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。

埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。
下痢や血便の原因を調べるために大腸内視鏡検査をすると、潰瘍性大腸炎の方もいらっしゃいます。
潰瘍性大腸炎は難病に指定されていて、完治する方法は見つかっていないため、
日頃から、しっかり薬を内服などしていくことと、おなかの調子の悪い時は食事に気をつけて症状をコントロールしていくことが治療の中心となります。
これを読めば、潰瘍性大腸炎の原因・症状・治療・食事についてがわかります!
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために」
それでは始めていきましょう!
潰瘍性大腸炎とは?
潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)は、
大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こし、びらん(ただれ)や潰瘍(ただれが深くなった状態)ができる病気です。
炎症は直腸(肛門に近い部分)から始まり、連続して大腸の奥まで広がっていくのが特徴です。

潰瘍性大腸炎は「炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)」というカテゴリーに含まれ、
クローン病と並んで代表的な疾患のひとつです。
主な症状は、下痢や血便、腹痛などで、良くなったり悪くなったりを繰り返す「再燃・寛解型」の経過をたどることが多く、長期的な治療と経過観察が必要です。

潰瘍性大腸炎の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、遺伝的な体質に、食生活や腸内環境、ストレスなどの環境要因が加わり、腸の免疫が異常に反応して自分の腸を攻撃してしまうことが関係していると考えられています。
発症年齢は20代を中心とした若年層に多いですが、高齢になってから発症するケースもあります。

近年では患者数が増加しており、2021年時点で日本国内の推定患者数は約25万人にのぼります。

国からは「指定難病」として認定されており、医療費の助成制度も整備されています。
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎のはっきりとした原因は、現在のところまだ解明されていません。
ただし、いくつかの要因が複雑に関わり合って、発症につながると考えられています。

ここでは、それぞれの要因について見ていきます。
遺伝的な体質

潰瘍性大腸炎は、家族の中に同じ病気の人がいることがあり、遺伝的な要因が関係しているとされています。
実際にクリニックで診療をしていると、両親のどちらかが潰瘍性大腸炎だったり、兄弟姉妹に潰瘍性大腸炎の方がいらっしゃるケースもあります。
ただし、「この遺伝子があると必ず病気になる」というものではなく、あくまでも“かかりやすさ”が高まるというレベルです。
ご家族に潰瘍性大腸炎の方がいる場合は、頭の片隅に置いていただき、下痢や出血などの症状があった際には、早めに病院を受診するようにしてください。
免疫の異常反応
本来、免疫はウイルスや細菌から体を守る働きをします。
しかし潰瘍性大腸炎では、腸の粘膜に対して自分の免疫が過剰に反応し、間違って攻撃してしまうことで炎症が起こると考えられています。
この免疫の異常が、慢性的な腸の炎症につながっています。
腸内細菌のバランスの乱れ
私たちの腸の中には、数百種類以上の細菌がすみついており、「腸内細菌叢(腸内フローラ)」と呼ばれるバランスのとれた環境をつくっています。
これらの細菌は、食べ物の消化や栄養の吸収を助けるだけでなく、腸の免疫機能や炎症のコントロールにも深く関わっています。
健康な腸内では、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」がバランスよく共存し、腸の粘膜を守ったり、免疫の働きを整えたりしています。

しかし潰瘍性大腸炎の患者さんでは、この腸内フローラのバランスが崩れ、「善玉菌」とされる有用な菌が減少し、逆に炎症を助長しやすいタイプの大腸菌などが増える傾向があります。
大腸菌自体はふだんは悪さをしない日和見菌ですが、腸内環境の乱れによって病原性を持つ株が優勢になることがあります。

こうした腸内細菌の構成変化によって、腸の防御機能(バリア機能)が弱まり、
免疫が過剰に反応しやすくなり、結果として腸に慢性的な炎症が引き起こされると考えられています。
最近では、この「腸内フローラの乱れ」が潰瘍性大腸炎の発症や再燃に関係している可能性が高いことから、
腸内環境を整える治療も注目され、研究が進められています。
食生活や環境の影響
高脂肪・低食物繊維といった「欧米型」の食事、ウイルスや細菌による感染、一部の薬(解熱鎮痛薬など)が発症や再燃のきっかけになる可能性があると指摘されています。
都市部での生活や衛生環境の変化など、さまざまな環境因子も関与していると考えられます。
喫煙や虫垂切除との関係
意外なことに、潰瘍性大腸炎は非喫煙者や禁煙した人のほうがかかりやすい傾向があることがわかっています。
また、虫垂(いわゆる「盲腸」)を切除した人では、潰瘍性大腸炎の発症リスクがやや低いという研究結果もありますが、いずれも発症の決定的な要因とは言えません。
潰瘍性大腸炎の症状
潰瘍性大腸炎の症状は、腸の炎症がどのくらい広がっているか(範囲)や、どれだけ強く起きているか(程度)、全身の症状が起きているか、腸以外の部分にも炎症があるのかどうかによって変わってきます。

ここからは、潰瘍性大腸炎の症状を
- 大腸の症状
- 全身の症状
- 腸管合併症
- 腸管外合併
の4つのカテゴリーに分けて説明をしていきます。
大腸の症状
潰瘍性大腸炎で炎症が強い時には、大腸が下の写真のように炎症を起こし傷ついているので、出血や粘液が出たり、水分を吸収できなくて下痢になったり痛みが出たりします。

患者さんの症状としては、
「1日7−8回下痢をします」
「排便の時に出血と粘液が出ます」
「お腹がしぶる感じがして痛いです」
といった表現が多いです。
ここから、大腸の症状についてみていきます。
血便・粘血便

大腸の粘膜に炎症やびらん・潰瘍ができると、傷んだ腸の粘膜から出血や粘液が出て、便に赤い血や粘液が混ざるようになります。
出血の色は、鮮やかな赤色〜やや暗めの赤色となることが多く、便全体が赤っぽくなることもあります。
炎症が強くなると、トイレに行っても便は出ずに血液や粘液だけが出ることもあります。
下痢(水様便)

炎症によって大腸の水分吸収がうまくできず、水っぽい便が何度も出るようになります。
軽症でも1日数回、炎症が強くなると1日10回以上になることもあります。
トイレに行く回数が増えるため、仕事や生活に支障をきたす場合も多いです。
また、トイレに行っても便が出ないこともあるので、実際にトイレに行っている回数はもっと多くなることもあります。
腹痛

潰瘍性大腸炎の炎症は直腸から始まり、口側に進んでいくため、
多くの場合、左下腹部や下腹部に痛みが出やすく、排便前に痛みが強まり、排便後に軽くなるのが特徴です。
炎症が強いと、痛みが長く続くこともあります。
全身の症状
発熱・倦怠感

活動期には、腸の炎症にともなって微熱〜38℃台の発熱やだるさ(倦怠感)、食欲低下がみられます。
高熱が続く場合には、感染症など他の病気の可能性も考える必要があります。
体重減少
食欲の低下、頻回の下痢、炎症による代謝亢進が重なり、体重が減りやすくなります。
症状が長引くと、栄養不良や筋力低下をおこすこともあります。
腸管合併症
腸に起こる合併症としては、以下の2つが重要です。
- 中毒性巨大結腸症
- 大腸がん
それぞれについてみていきます。
中毒性巨大結腸症
中毒性巨大結腸症(ちゅうどくせいきょだいけっちょうしょう)は、潰瘍性大腸炎が急激に悪化したときに起こる、命にかかわることもある重い合併症です。
大腸の強い炎症によって腸の動きが止まり、腸が風船のように大きくふくらんでしまいます。

おなかが張って痛くなり、発熱、頻脈、意識障害などの症状が出ることがあります。
腸に穴があいたり、腹膜炎になっている場合は、緊急手術が必要です。
そうでない場合には、まず絶食して点滴や抗菌薬などで腸を休ませる治療(保存的治療)を行います。
こうした治療を48時間〜72時間行っても症状がよくならなければ、外科的治療(大腸全摘術など)を考えることになります。
中毒性巨大結腸症は、早期の診断と外科チームとしっかり相談しながら治療を進めていくことが重要です。
大腸がん
潰瘍性大腸炎では、炎症が長く続くことで大腸がんのリスクが高まります。
特に発症から8年を超えると注意が必要で、10年を経過するとさらにリスクが高まります。

潰瘍性大腸炎に合併する大腸がんの危険因子は、
- 潰瘍性大腸炎になってからの期間
- 全大腸炎型
- 活動性の炎症がある
- 炎症性ポリープ
- 原発性硬化性胆管炎(PSC)の合併
- 大腸がんの家族歴
などがあります。
国の治療指針や国内のガイドラインでは、
発症から8年を経過したら、大腸癌の早期発見のために毎年1回の大腸内視鏡検査を受けることが推奨されています。
炎症によって腸の細胞が変化し、がんになるまでに時間がかかるため、継続的な内視鏡検査ががんの予防と早期発見につながります。
腸以外の症状(腸管外合併症)
潰瘍性大腸炎(UC)は大腸の炎症が中心の病気ですが、実は腸以外の場所にもさまざまな症状が出ることがあります。
これを「腸管外合併症」と呼びます。関節の痛みや腫れ、皮膚の赤みや潰瘍、目のかすみや痛み、さらには口内炎や肝臓の病気まで、その症状は多彩です。

特に、炎症が大腸全体に広がっているタイプのUCでは、こうした腸管外の症状が出やすいことがわかっています。
患者さんの約40%は複数の腸管外合併症を経験していて、また約25%の方は潰瘍性大腸炎と診断される前から症状が出ているケースもあります。
主な合併症と頻度は以下の通りです。
合併症名 | 頻度 |
---|---|
関節痛・関節炎 | 関節痛:約40〜50% 関節炎:約6.8〜20% |
皮膚病変 | 約15% 結節性紅斑:1.2〜6.2% 壊疽性膿皮症:0.3〜2.2% |
眼病変(虹彩炎症・ぶどう膜炎) | 約1.6〜5.4% |
原発性硬化性胆管炎(PSC) | 約2.4〜7.5% |
アフタ性口内炎 | 推定1〜10%未満 |
以下に、表にある代表的な5つの病態についてみていきます。
関節痛・関節炎

潰瘍性大腸炎で最も頻度の高い腸管外合併症で、関節痛は約40〜50%、関節炎は約6.8〜20%にみられます。
関節炎には2つのタイプがあります。
Type1:炎症が強いときに一緒に出る「一時的な関節炎」
Type1は、膝や足首などの大きな関節に痛みや腫れが出るタイプです。
潰瘍性大腸炎の症状が悪化したときに現れやすく、腸の調子がよくなると関節の症状もおさまる傾向があります。
痛みが出る関節は1〜4つ程度で、左右対称ではないことが多いです。
Type2:腸の症状とは関係なく続く「慢性的な関節炎」
Type2は、手首や手指、肘など小さな関節に左右対称に痛みが出るタイプです。
潰瘍性大腸炎の活動性とはあまり関係なく、関節症状が長く続いたり、再発を繰り返すことがあります。
関節リウマチと似ているため、専門医での診断が必要です。

また、関節炎は、症状が出る場所によっても2つに分けられます。
末梢型(まっしょうがた)関節炎
手や足など、体の先端の関節に出るタイプです。
さきほどのType1とType2はこの「末梢型」に含まれます。
体軸型(たいじくがた)関節炎
腰や背中の骨、骨盤の関節(仙腸関節)など、体の中心に近い場所に出るタイプです。
動かすと痛い、朝こわばる、腰が動かしにくいなどの症状があり、「強直性脊椎炎」と呼ばれることもあります。
皮膚病変(結節性紅斑・壊疽性膿皮症など)
皮膚病変は潰瘍性大腸炎の患者さんの15%程度にみられます。
代表的なのが「結節性紅斑(けっせつせいこうはん)」という症状で、すねなどに赤くて少しふくらんだ、押すと痛いしこりが出ます。

多くの場合は病気の悪化時に出て、しばらくすると自然に良くなります。
一方で、「壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)」という皮膚の潰瘍は治りにくく、広がることもあるため、早めに皮膚科での専門的な治療が必要です。
また、治療に使う薬の影響で、乾癬(かんせん)に似た皮膚のトラブルや、帯状疱疹が出ることもあるため、皮膚の異変に気づいたら早めに相談しましょう。
眼病変(虹彩炎・ぶどう膜炎)

潰瘍性大腸炎の患者さんの中には、目に炎症が起こることがあります(約1.6〜5.4%)。
代表的なのが「虹彩炎(こうさいえん)」や「ぶどう膜炎(ぶどうまくえん)」という病気です。
これらは目の奥の組織に炎症が起こる病気で、急に目が赤くなったり、痛くなったり、視力がぼやけたりすることがあります。
進行が早いと、視力が落ちたり、失明する危険もあるため注意が必要です。
潰瘍性大腸炎の活動期に限らず、お腹の症状が落ち着いていても突然起こることがあります。
目に異変を感じたときは、すぐに眼科を受診しましょう。
原発性硬化性胆管炎(PSC)
PSC(原発性硬化性胆管炎)は、肝臓から腸につながる「胆管」という管が細くなってしまう病気です。潰瘍性大腸炎の患者さんの2〜8%ほどに合併するといわれています。

この病気は、初期にはほとんど症状がないままゆっくり進行します。気づかないうちに肝臓に負担がかかり、将来的には肝硬変や肝不全に進むこともあります。
特徴として、潰瘍性大腸炎の炎症が直腸には少なく、大腸の右側(上の方)に強く出る傾向があり、大腸がんのリスクも高くなるため、定期的な大腸カメラの検査がとても大切です。
PSCが進行すると、最終的には肝移植が必要になることもあります。早期発見・定期的なチェックが重要です。
アフタ性口内炎(アフタ性口内潰瘍)
潰瘍性大腸炎の患者さんの中には、口の中に小さな白っぽい傷(潰瘍)ができることがあります。
これを「アフタ性口内炎」といいます。

多くは舌やほほの内側、唇の裏などにでき、しみるような痛みがあります。
潰瘍性大腸炎が悪化しているときに出やすく、体の中の炎症反応の一部として起こると考えられています。
食事や会話のときに気になることもありますが、たいていは数日〜1週間ほどで自然に治ることが多いです。
まれに治りにくく、薬による治療が必要になることもあります。
「口内炎がよくできるな…」という方は、潰瘍性大腸炎との関係があるかもしれません。
気になるときは、早めに医師に相談してみてください。
潰瘍性大腸炎の検査・診断
現在のところ、潰瘍性大腸炎を確実に診断したり、薬の効果を単独で判定できる検査はありません。
そのため、診断には問診や診察をはじめ、血液検査、便の検査、内視鏡検査、画像検査などを組み合わせて総合的に判断していきます。
潰瘍性大腸炎診断の第一歩は、潰瘍性大腸炎とよく似た症状を示す、薬による腸炎、細菌感染、放射線による腸障害などの病気を除外することです。
ここからは、潰瘍性大腸炎の検査・診断の流れにそって説明をしていきます。
問診

まずは、詳しい問診を行い、
- 症状の始まりや経過
- 出血や下痢の程度
- 腹痛や発熱の有無
- その他の症状
- 現在や過去の病気の治療歴
- 家族歴
- 薬の使用歴
などを確認します。
診察
腹痛がある場合は、痛みの場所や程度を確認します。
ま他、皮膚病炎など腸以外の病変がないかどうかも確認します。
次に、指や肛門鏡(こうもんきょう)という小さな器械を使って、直腸肛門診察を行います。

これにより、出血の色や程度をみたり、直腸の粘膜に炎症があるかどうかがわかります。
血液検査・便検査(便培養)

血液検査では炎症の程度(CRPや白血球数など)や貧血の有無を確認します。
また、便の検査(便の培養検査)では細菌が関係する感染性腸炎でないかを調べます。
便の培養検査は、この後の大腸内視鏡検査のときに行うこともあります。
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

潰瘍性大腸炎の診断の上で、最も重要な検査が「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」です。
大腸の中を直接観察して、炎症の広がりや重症度を評価します。
内視鏡検査の際には、炎症部分の粘膜から小さな組織(生検)を採取します。

採取した組織をは、顕微鏡で詳しく調べる「病理組織検査」を行い、
潰瘍性大腸炎に特徴的な組織の変化があるかどうかを確認します。
その他の追加検査
大腸内視鏡検査までで潰瘍性大腸炎の診断が確定しない場合、
特にクローン病など他の炎症性腸疾患との区別を慎重に行うために、
必要に応じて腹部エコー、CT、MRI、小腸の検査などを追加します。
最終的な診断
最終的には、これらの診察や検査の情報を総合し、
厚生労働省が定める「潰瘍性大腸炎の診断基準」に基づいて診断が確定されます。

潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎の治療は、厚生労働省からの治療指針に基づいて行われます。
ここからは潰瘍性大腸炎の治療について、わかりやすく解説をしていきます。
治療の目標 〜「寛解」をめざして〜
潰瘍性大腸炎は現時点では完治できる方法はまだ見つかっていません。
このため、潰瘍性大腸炎の治療では、まず症状を落ち着かせる「寛解」状態をつくること、そしてその状態を長く保つこと(寛解維持)が目標です。

そして、お腹の調子を整えるだけでなく、大腸の粘膜の炎症をしっかりと抑える「粘膜治癒」を目指すことが、将来の再発予防や大腸がんリスクの軽減にもつながります。
治療の進め方 〜「寛解導入」と「寛解維持」〜
潰瘍性大腸炎の治療は大きく以下の2段階に分けて考えます。
- 寛解導入療法:症状が出ているときに、まず炎症を抑えて症状を改善させる治療
- 寛解維持療法:症状が落ち着いたあとに、再発を防ぐために続ける治療
これを車の故障に例えてみていきます。

車のエンジントラブルが起こった時は、すぐに整備工場へ依頼し、エンジンの不調をしっかり治して走れる状態にします。
潰瘍性大腸炎の場合は、腸が痛んで出血や下痢を起こしている状態を改善して、速やかに炎症を落ち着けて生活がしていけるようにする治療です。
これを「寛解導入療法」といいます。
車の調子が良くなったら、次は再びエンジントラブルが起きないように日頃からエンジンオイルの交換や定期点検をしていくと思います。
潰瘍性大腸炎の場合は、症状が落ち着いても再度症状が起きないように、毎日薬を飲んだり定期的に注射をしたりすることがこれにあたります。
これを「寛解維持療法」といいます。
寛解状態を維持できることで、生活の質も上がり、日々の生活が楽に送れるようになります。
なお、「寛解導入」と「寛解維持」に使う薬や治療の内容は、
- 炎症の広がり(直腸型・左側型・全大腸型)
- 症状の重さ(軽症・中等症・重症)
などに応じて調整されます。
治療の流れ 〜まずは5-ASA製剤から、段階的に進めるステップアップ療法〜
潰瘍性大腸炎の治療は、以下のように段階的に進める「ステップアップ療法」が基本です。
ステップ | 主な治療法 | 対象 |
---|---|---|
Step1 | 5-ASA製剤 | 軽症〜中等症 |
Step2 | ステロイド | 中等症以上、5-ASAで不十分な場合 |
Step3(標準) | 免疫調節剤、JAK阻害剤、生物学的製剤 | ステロイド無効例・再発を繰り返す場合 |
Step3(特殊) | 免疫抑制剤 | 重症・緊急回避的な寛解導入、ステロイド抵抗・依存 |
Step4 | 外科的治療の検討 | 難治例、重篤な合併症、がん化の可能性など |
このように、症状の重さや、使った薬がどれくらい効いているかを見ながら、
必要に応じて治療を一段階ずつ強めていくのが、現在の標準的な治療の考え方です。
ここからはそれぞれの治療薬について少し詳しくみていきます。
5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製剤)

潰瘍性大腸炎の治療で最初に使われる薬で、炎症を起こしている大腸の粘膜に直接働いて、炎症を抑える作用があります。
軽症〜中等症の寛解導入に使われ、症状が落ち着いた後の寛解維持にも使われます。
副作用が少なく、長期にわたって使用されることが多い薬です。
さらに、5-ASAの内服を継続することは、大腸がんの発生リスクを下げる効果があると複数の研究で示されていて、
日本のガイドラインでも「長期内服継続による予防的効果を期待して寛解維持に用いる」と書かれています。
ステロイド

強力に炎症を抑える薬で、中等症〜重症の活動期に寛解導入のために使われます。
即効性がありますが、長期間使用すると骨粗鬆症や糖尿病、感染症のリスクがあるため、
症状が落ち着いたら速やかに減量・中止します。
免疫抑制薬

免疫抑制薬は、体の免疫の働きを一時的に抑えることで、腸の炎症をしずめる薬です。
潰瘍性大腸炎では、ステロイドが効かない重症例や、早く炎症を抑える必要がある場合に使われます。
タクロリムスは内服薬で、外来でも使用できることがあり、血中濃度を測定しながら使います。
シクロスポリンは主に入院中に点滴で使用され、より緊急性の高いケースに用いられます。
どちらも短期間の使用が前提で、寛解後は他の薬に切り替えるのが一般的です。
免疫調節薬

免疫の働きを調整する薬で、寛解導入後の再燃(ぶり返し)を防ぐ目的で長期的に使われます。
効果が出るまでに1〜3ヶ月かかるため、導入には向きません。
白血球減少や肝機能障害などの副作用があり、定期的な血液検査によるチェックが必要です。
生物学的製剤(バイオ製剤)

バイオ製剤は、体内の免疫の異常な働きをピンポイントで抑える注射薬です。
主に、これまでの治療(5-ASAやステロイドなど)では十分な効果が得られなかった、中等症〜重症の潰瘍性大腸炎の方に使われます。
この薬は「生物学的製剤」と呼ばれ、特定の免疫物質に直接働きかけて炎症をしずめるのが特徴です。
投与方法には、
- 病院で点滴を受けるタイプと、
- 自宅で自己注射できるタイプ
の2種類があり、症状や生活スタイルに応じて選ばれます。
治療効果が高く、寛解導入にも寛解維持にも使える点が大きな利点ですが、
副作用(感染症など)にも注意が必要なため、定期的な通院が必要となります。
JAK阻害薬

JAK(ヤヌスキナーゼ)という細胞内の炎症信号伝達をブロックする新しい内服薬です。
効果が出るまでが早く、注射が不要という利点があります。
ただし、感染症や血栓症などのリスクがあるため、慎重に使用していきます。
手術が必要になるのはどんなとき?

ほとんどの患者さんは薬で治療可能ですが、次のような場合には外科手術(大腸全摘)が検討されます。
- 出血が止まらない、腸に穴があく(穿孔)、狭くなる(狭窄)などの合併症がある
- 薬がまったく効かない重症例
- 長期間の炎症で大腸がんのリスクが高くなったと判断されたとき
標準的な手術は「大腸全摘+回腸嚢肛門管吻合術(IPAA)」と呼ばれ、人工肛門を避けられる可能性もあります。
潰瘍性大腸炎になったときの食事について
日頃外来診療をしていると、
「どういう食事をしたらいいですか?」
「食べてはいけないものはありますか?」
「アルコールは飲んでもいいですか?」
なとどいった食事に関する質問を多く受けます。

潰瘍性大腸炎の方で、特定の食事が腸の炎症を改善させるという明確な科学的根拠はありません。
したがって、食事のみで治療を行うことは勧められません。
あくまでも、薬による治療がメインです。
潰瘍性大腸炎の方の食事についてのポイントは、
- 症状が落ち着いている時は何を食べてもOK
- 調子が悪い時は、お腹にやさしい食事を心がける
の2点です。
でも、これは潰瘍性大腸炎の方でなくても言えることです。
下痢をしている時に、あえて、脂っこいものを食べたり、アルコールを飲むことはしないと思います。
潰瘍性大腸炎の方も同じです。
症状が落ち着いているときの食事(寛解期)
症状が落ち着いている時は何を食べてもOKです。
ただ、動物性の脂肪やタンパク、油っこいものやアルコールなど、特定のものを食べると下痢をしやすい方はいます。
自分で、「この食べ物はたくさん食べると調子がわるいな」というものがあれば、
日頃から少し控えめにするといいと思います。

大切なのは「自分の体質に合う/合わない食品を見つけること」です。
「どうもこの食品を食べると調子が悪いな」というものはメモをしておき、
日頃からなるべくとらないようにするのが大切です。
調子が悪い時の食事(活動期・再燃期)
下痢や腹痛、出血があるときには、大腸の粘膜が痛んでいるので、
腸に負担をかけない「おなかにやさしい食事」がいいです。
イメージとしては、昔ながらの「日本食」、写真のような和定食のスタイルです。

一汁二菜の定食を意識して、ごはん・味噌汁・焼き魚・煮物・豆腐など、脂肪や刺激が少なく、やさしい味付けの料理にしてみてください。
反対に、焼肉などの脂っこい肉類や背脂たっぷりのこってりラーメン、ファストフード類、激辛の料理、
カップ麺やスナック菓子などの加工食品は腸への刺激が強いので避けましょう。
コンビニなどで買う時もできるだけ、うどんやおにぎりや、カップの味噌汁・スープなど消化に優しいものがおすすめです。
そして、アルコールもお腹の調子が良くなるまでは控えた方が無難です。
潰瘍性大腸炎の食事のまとめ
日頃の生活では、自分の体調と相談しながら食事を工夫していくことが大切です。
薬のコントロールがうまくいっていて、症状が落ち着いている時にまで、厳しい食事制限はしなくていいと思います。
ただし、下痢の回数が増えたりした時などは、脂っこい食事やアルコールを少し控えるなどの工夫をしてください。
この章の最初でもお話ししましたが、
潰瘍性大腸炎の方で、特定の食事が腸の炎症を改善させるという明確な科学的根拠はありません。
したがって、食事のみで治療を行うことは勧められません。

あくまでも、薬による治療がメインです。
とはいえ、食事も補助的な役割として、症状を安定させる助けになります。
食事と薬の両方でコントロールしていくことが大切です。
そして、食事内容をお腹に負担が少ない食事にしてみても症状が改善しない時には、
- 現在の炎症の状況を評価
- 治療内容の見直し
も検討されますので、早めに病院を受診して主治医に相談をしてください。
草加西口大腸肛門クリニックでの【潰瘍性大腸炎】の診療

当院には、「もしかしたら潰瘍性大腸炎かも?」と不安を抱えて来院される方が多くいらっしゃいます。
まずは丁寧な問診で、下痢・血便・腹痛などの症状、これまでの経過、生活習慣について詳しくお聞きします。
そのうえでお腹の診察を行い、必要に応じて大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を実施します。
大腸の炎症の状態を直接確認することで、正確な診断につなげます。
潰瘍性大腸炎は、感染性腸炎や大腸がんなど、他の病気との見極めが重要です。
当院では、血液検査や便の培養検査、内視鏡検査を組み合わせて慎重に診断を行います。
診断がついた後は、炎症の広がりや症状の程度に応じて、患者さん一人ひとりに合った治療方針を立てます。
当院では、5-ASA製剤による治療を中心に、必要に応じてステロイド治療にも対応しています。
重症の方や、より専門的な治療(免疫調節薬・生物学的製剤など)が必要と判断された場合には、連携している専門医療機関をご紹介し、スムーズに治療が継続できるようサポートいたします。
「血便が続いている」
「下痢が長引いている」
「お腹の調子がずっと悪い」
などの症状がある方は、お気軽にご相談ください。
早期の診断と治療が、病気の進行や合併症の予防につながります。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。
「潰瘍性大腸炎の原因・症状・治療・食事について」お分かりいただけましたでしょうか。
潰瘍性大腸炎の方は、まずは病気のことをしっかりと理解して、
内服薬を中心とした治療を行うことで、寛解状態を維持していくことが重要です。
寛解状態を維持することで、病気になる前と同様の生活が送れるようになります。
ただ、時には症状が悪くなる(再燃)することもあります。
その時には、無理をせず、早めに主治医に相談をして、検査や治療内容の見直しをしてもらってください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 皆様の病気の予防・早期発見・早期治療
- 皆様が大腸肛門科を受診する際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎草加西口大腸肛門クリニック
参考文献
- 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和6年度改訂版.厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業
- 炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂第2版).日本消化器病学会
- 松本主之,久松理一,江﨑幹宏ほか:炎症性腸疾患内視鏡診療ガイドライン.日本消化器内視鏡学会雑誌;66:1387-1426, 2024
- 炎症性腸疾患の腸管外合併症治療指針の改訂.厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究 分担研究報告書(令和3年度)