「検診で便の検査でひっかかりました大腸がんでしょうか?」
多くの方が不安そうな顔でクリニックにいらっしゃいます。
不安になって当然だと思います。
あなた検診結果の用紙にも
- 便検査で血液反応がみられます。医療機関にて大腸の精密検査をお受けください。
- 便潜血検査により異常をみとめましたので、できるだけ早く精密検査を医療機関で受けてください。
- 検便で潜血反応が陽性で、便中に微量の血液の混入がみられます。大腸ポリープなどがないか検査が必要です。
などの【D2:要精密検査】のコメントが書かれているのではないでしょうか。
検診で行っている便潜血検査の目的は、大腸がんの早期発見です。
ただし、便潜血陽性=大腸がんではありませんのであわてないでください。
この記事では、「便潜血陽性の原因や大腸がんの確率、精密検査や妊娠中の対処法は?」などといった様々な疑問を解決していきます。
記事の内容
- 便潜血陽性とは?
- 便潜血陽性のときの数値の意味
- 便潜血陽性の原因となりうる病気
- 便潜血陽性のときの大腸がんの確率
- 便潜血陽性、1回陽性と2回陽性の違い
- 便潜血陽性のときの精密検査
- 妊娠中の便潜血陽性の対処法
- 便潜血陽性についてのQ&A
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。
埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。
また、大腸と肛門の専門医であり指導医でもあります。
これまでに便潜血陽性で悩む患者さんを10,000人以上診察してきました。
これを読めば、あなたも便潜血陽性のときにあわてず対処することができます。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
それでは始めていきましょう。
便潜血陽性とはどういうこと?
簡単にいうと、
『便潜血陽性』とは、便に血液がまざっている
ということです。
あなたの目に見えないような大腸からの出血を見つけるのが便潜血検査です。
まずは、あなたが受けた便潜血検査について説明をしていきます。
便潜血検査の基本的なこと
血液には図のような赤血球があり、赤血球には血色素と呼ばれるヘモグロビンが含まれています。
そして、ヒトに特有のヘモグロビンをヒトヘモグロビンといいます。
現在検診で一般的に行われている便潜血検査は、
『免疫法』といい、便のヒトヘモグロビンのみに反応する検査です。
このため、食事で食べた動物の肉などに含まれている血液には反応しません。
また、ヘモグロビンは胃酸や膵液などの消化液で変性します。
このため、口・食道・胃・十二指腸などの出血は検出できず、小腸や大腸の出血を検出しています。
しかし、小腸で出血を起こす病気はとてもまれなため、
『便潜血検査≒大腸の出血を検出』とされています。
ただ、肛門に出血をするような病気があれば、便潜血検査は陽性となります。
便潜血陽性になる人の割合
検診での便潜血陽性率は、7%以下になるように調整をされています。
「調整ってどういうこと?」
と思う方もいらっしゃると思います。
病院や自治体が行う検診では、便に含まれるヒトヘモグロビンの量の基準値を決めて、
その基準値より多い場合を陽性、少ない場合を陰性としています。
詳しくは、次の『便潜血陽性のときの数値の意味』の部分で説明します。
つまり、この基準値は、検診を行う病院や自治体で自由に決めることができます。
ある病院では陰性の判定だけど、別の病院では陽性の判定ということもありえます。
より多くの大腸がんを見つけたい場合は、基準値を下げます。
ただ、そうすると実際には病気のない多くの方が精密検査に回ることになります。
逆に基準を上げれば、精密検査に回る人が少なくなり、病気を発見できないかもしれません。
また精密検査が行える件数にも限界があります。
これらのバランスを考えて、基準値が決められています。
便潜血陽性のときの数値の意味
あなたの検診の結果用紙の便潜血検査の欄に数値は書かれていますか?
結果用紙には数値がある場合とない場合があります。
先ほど、便潜血検査は基準値を決めてそれより高い場合を陽性、低い場合を陰性と判定することは説明しました。
あなたの検診結果に便潜血陽性としか書かれていない場合は、
「基準値をこえていますが、詳しい数値はまでは分からない」状況です。
下の図を見てください。
今回の検診の基準値が100の場合、
同じ便潜血陽性でも数値が120のこともあれば350のこともあります。
極端なことを言うと、同じ陽性でも101のこともあれば10,000のこともるということです。
一般的に同じ便潜血陽性でも数値の高い方が大腸がんの可能性が高くなります。
便潜血の数値と病気の関係を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
便潜血陽性の原因となりうる病気
「検便でひっかかりました、大腸がんでしょうか?」
とあわてて来院する患者さんがいらっしゃいます。
便潜血陽性となる病気は大腸がんだけではありません。
大腸から出血をきたす病気はすべて便潜血陽性となります。
だだ、明らかな出血をしている場合は、そもそも検診の便潜血検査の対象ではなく、病院での診察が必要です。
ここでは、日頃明らかな出血はないけれども、便潜血陽性になる可能性のある病気についてみていきます。
便潜血陽性の原因となる3の病気について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
それでは、以下の病気についてみていきましょう。
- 痔
- 大腸ポリープ
- 大腸がん
- 潰瘍性大腸炎
- 大腸憩室症
痔(いぼ痔、切れ痔)
便潜血陽性で、精密検査で大腸内視鏡検査をして約70%の人は、大腸がんや大腸ポリープがなく、
ほとんどは『痔』が原因で便潜血陽性になっていると考えられます。
「おしりは気になることがないんですけど…」
という方も多いと思います。
日頃出血がなく、便潜血陽性になる可能性のある痔は2つです。
- 内痔核(内側のいぼ痔)
- 裂肛(切れ痔)
内痔核(内側のいぼ痔)
肛門の内側のいぼ痔を内痔核といいます。
内痔核は肛門からの脱出の程度により、以下の4段階に分けられます。
内痔核の脱出の程度 | その内容 |
1度 | 便を出す時にほとんど脱出しない |
2度 | 便を出す時に脱出するが自然に戻る |
3度 | 便を出す時に脱出して指で押さないと戻らない |
4度 | 便を出す時以外でも常に脱出している |
日頃とくに気になっていなくて、便潜血陽性の陽性となるのは1度の内痔核です。
痔はがんとは関係がないので、気になっていない痔は放置してOKです。
裂肛(切れ痔)
あなたも、硬い便をした時におしりがピリッとして、紙にわずかに血がついたことはあるのではないでしょうか?
切れ痔の主な症状は痛みと紙につくくらいのわずかな出血です。
ただ日頃おしりの診察をしていると、
痛みがなく、血も出ない切れ痔もあるので、便潜血陽性になる可能性はあります。
痛みがなければそのままでOKです。
大腸ポリープ
便潜血陽性の約30%は「大腸ポリープ』が原因です。
写真のポリープもわずかですが出血をしています。
便潜血検査ではこういう出血を検出します。
小さなポリープであれば内視鏡で日帰り手術が可能です!
大腸がん
「日頃出血はしないから大腸がんはないだろう…」
と思っている方、それは違います!
早期の大腸がんは目にみえる出血はしません。
目にみえる出血をするようになるとすでに進行がんのことが多いです。
そして『大腸がん』は進行度により治療法は異なります。
下の写真のような、非常に早期の大腸がんであれば内視鏡で日帰り切除が可能ですが、
進行がんでは入院して手術、抗がん剤治療が必要となります。
大腸がんの詳細を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は20歳〜30歳に多い、大腸に炎症をおこす病気です。
治療法が見つかっていないので、厚生労働省から難病に指定されています。
若い方に多いのですが、50歳以上で発症することもあります。
潰瘍性大腸炎は一般的に下痢・血便・腹痛などを伴います。
しかし、便潜血陽性で偶然見つかるような潰瘍性大腸炎はほとんど症状はないはずです。
潰瘍性大腸炎はがんと違って悪性の病気ではありません。
生活に支障をきたしていない場合は、患者さんとよく相談をしながら治療を検討していきます。
潰瘍性大腸炎の詳細を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
大腸憩室症
大腸憩室とはなんでしょう?
大腸憩室は大腸の中の圧力が上がることで、
大腸の壁の弱い部分が外側にへこんでしまう状態です。
皮膚でいうシワやシミと一緒で、年齢に伴う大腸の変化です。
大腸がんとも無関係です。
大腸内視鏡検査をした時に発見されることが多いです。
体の変化の一つなので、治療対象にはなりません。
ただ、この憩室が原因で出血をすることがあります。
ほんのわずかな憩室出血であれば目にみえる出血はなく、便潜血陽性となる可能性はあります。
便潜血陽性のときの大腸がんの確率
「検診で便潜血陽性だったけど大腸がんかな?」
便潜血陽性になったときに誰もが一番気になるのは大腸がんの確率だと思います。
『便潜血陽性のときの大腸がんの確率は約3%』です。
便潜血陽性のときの大腸がんの確率について詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。
便潜血陽性、1回陽性と2回陽性の違い
通常便潜血検査は2日に分けて便をとる2日法で行います。
便潜血1回だけ陽性のときと2回陽性のときの一番の違いは、大腸がんの確率です。
- 便潜血1回だけ陽性のときの大腸がんの確率…約2〜3%
- 便潜血2回とも陽性のときの大腸がんの確率…約10〜14%
同じ便潜血陽性でも2回陽性だと約5倍大腸がんの可能性があります!
さらに
- 便潜血1回だけ陽性のときの進行大腸がんの確率…約20%
- 便潜血2回とも陽性のときの進行大腸がんの確率…約55%
と2回陽性の場合は半数以上が進行大腸がんで発見されます。
便潜血陽性回数の違いの詳細は以下の記事をご覧ください。
便潜血陽性のときの精密検査【大腸内視鏡検査】と【大腸CT検査】
便潜血陽性のときの精密検査はなんでしょう?
「便潜血陽性」「精密検査」で検索すると大腸内視鏡検査を勧めるサイト一覧が出てきます。
便潜血陽性のときの精密検査の第一選択は大腸内視鏡検査です!
大腸内視鏡検査を受けられる方は大腸内視鏡検査を受けてください。
ただ、大腸内視鏡検査は事前の準備として、
約2リットルの下剤を飲み何回もトイレに行き、腸の中をきれいにする必要があります。
また、事前に食事制限も必要となります。
大腸内視鏡検査前の食事制限の詳細は以下の記事をご覧ください。
大腸内視鏡検査前後の食事と飲み物について【専門医が徹底解説】
大腸内視鏡検査をうけるにはそれなりの時間と体力が必要です。
「2リットルの下剤を飲む自信がない…」
「内視鏡の検査が恐怖で…」
いろいろな理由で大腸内視鏡検査が受けられない方もいらっしゃいます。
でも、大腸内視鏡検査が受けられないからといって精密検査を受けるのをあきらめないでください!
便潜血陽性のときのもう一つの精密検査として【大腸CT検査】があります。
大腸CT検査も少量の下剤を飲む必要はありますが、内視鏡検査より体の負担は少ないです。
ただし、最大のデメリットとして治療ができません!
大腸CT検査で病気が見つかった場合は後日大腸内視鏡検査を受ける必要があります。
大腸CT検査の詳細は以下の記事をご覧ください。
便潜血陽性の精密検査は?どの病院を受診?【専門医が徹底解説】
便潜血陽性、妊娠中の対処法
「妊娠中ですが便潜血陽性になりました…」
クリニックにも不安な顔で妊婦さんがいらっしゃいます。
妊娠中の便潜血陽性の場合は対処法が非常に難しいです。
なぜなら、妊娠中の大腸内視鏡検査の安全性は保証されていないからです。
診察の結果、明らかな出血がなく便潜血陽性のみの場合、多くは妊娠出産が落ち着いてから大腸内視鏡検査をすることになると思います。
ただ、「たぶん痔からかな…」と自己判断はしないで、一度は病院を受診して診察を受けてください!
妊娠中の便潜血陽性の原因と対処法は以下の記事をご覧ください。
便潜血陽性についてのQ&A
ここでは、記事本文でお伝えできなかった内容をQ&Aでまとめました。
Q.便潜血陽性になりました、もう一度便潜血検査をして陰性だったら精密検査を受けなくてもいいですか?
A.便潜血陽性になった場合に、もう一度便潜血検査を受けることはお勧めしません!
もし、あなたがもう一度便潜血検査を受けて陰性になったとしても、1度は陽性になったという事実は変わりません。
便潜血が陽性のときの大腸がんの確率は約3%です。
そして2回陽性の時の大腸がんの確率は10%以上です。
便潜血検査が1回でも陽性になった時は、必ず精密検査を受けてください。
Q.1年前に便潜血陽性になり大腸内視鏡検査をして異常はなく、今年の検診でまた便潜血陽性でした。精密検査は必要ですか?
A.精密検査を受けるのをお勧めします
大腸内視鏡検査は人の目で行っている検査なので100%ということはありません。
1回の検査で見つけることのできない病気があるのも事実です。
1年前に異常がなければ、おそらく進行がんはないと思いますが、癌の元になる腺腫というポリープがないとは言い切れません。
私は日頃の診療で、
1年前の大腸内視鏡検査で異常がない場合でも、今年の検査で便潜血陽性になった場合は大腸内視鏡検査をお勧めしています。
Q.25歳です、検診で便潜血陽性になりました。若いから精密検査を受けなくてもいいですか?
A.若くても精密検査を受けてください
大腸がんは40歳ころから増え始めます。
25歳のかたの大腸がんの罹患率は人口10万人に対して2.8人です。
数値の示すように大腸がんの可能性は低いとは思います。
ただゼロとはいえません。
私がこれまで診療をしてきた中で20歳代の大腸がんの方もいらっしゃいました。
「若いから自分は多分大丈夫!」
と思って放置せず、精密検査を受けてください。
どうしても精密検査を受けるのが不安な場合は、まずは病院で相談をすることから始めてみてください。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきましてありがとうございました。
便潜血検査についてのあなたの疑問は解決されましたでしょうか?
最後に私からのお願いです。
『便潜血陽性』というあなたの体からの危険のサインを決して放置しないでください。
そして、便潜血検査が1回でも陽性になったら必ず精密検査を受けてください。
検査を受けて何もないのが一番いいです。
大腸ポリープや非常に早期の癌であれば内視鏡で治療ができますので、このタイミングで発見できてラッキーです。
そして、もし手術が必要な大腸がんがあったとしても
「もし今回大腸がんが見つからなかったら…」と考えてみてください。
今年の検診は便潜血陰性で、来年陽性になった場合は1年間病気が進行することになります。
あなたの体に大腸がんがあるという事実は変えられません。
それなら、前を向いて今このときから治療を開始していきましょう!
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 皆様の病気の早期発見・早期治療
- 皆様が肛門科を受診する際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎https://soka-ok2.jp