「おしりが痛い!」
便秘で強くいきんで硬い便を出した時におしりが切れたり、
何回も下痢をしておしりがヒリヒリしたり、
だれもが一度は経験したことがあるのではないでしょうか?
ほとんどのおしりの痛みは軽症でそのうち良くなります。
しかし、なかなか良くならないおしりの痛みの場合は原因をしっかりと診断して、治療をしていく必要があります。
この記事では、肛門科医の視点から「おしりの痛みの原因となる病気」について解説をしていきます。
この記事の内容
- おしりが痛い原因となる病気
- おしりが痛いときはどうしたらいいの?
- 草加西口大腸肛門クリニックでの【おしりが痛い】ときの診療
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。

埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。
「なんでおしりが痛いんだろう?」と不安になりつつも、
市販の軟膏などで様子をみているものの、
痛みが良くならず日常生活に支障をきたしている方もいらっしゃると思います。
これを読めば、おしりの痛みの原因について知ることができ、対処法がわかります!
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために」
それでは始めていきましょう!
おしりが痛い原因となる病気
日々クリニックで診療をしていると、「おしりが痛い」ことで来院される方が非常に多くいらっしゃいます。
「おしりが痛いので多分痔だと思います」
多くの方がこうおっしゃいます。
だいたいあっていますが、痔の中にも3種類あり、
さらに、痔以外にも多くの病気があります。
ここでは、おしりの痛みの原因となる主な病気について解説をしていきます。
痔核(いぼ痔)
「昨日から急におしりがはれて痛いです」
「昨日バイクでツーリングしてからおしりが痛いです」
「いつもは押せば戻るのですが、戻らなくて痛いです」
おしりの痛みの原因でいぼ痔は非常に多いです。

痔核は、肛門周囲の静脈がうっ血し、腫れてこぶ状になる病気です。
肛門の内側にできる内痔核は初期段階では痛みは少ないですが、悪化すると脱出して痛みを伴うことがあります。
一方、肛門の外側にできる血栓性外痔核は突然の強い痛みとしこりを伴うことが多いです。
痔核の痛みは、軟膏や内服薬、鎮痛剤などで改善することが多いため、絶対に手術が必要というわけではありません。
飛び出ている痔は指で押し戻していいの?
痔がおしりから出ていて、痛みがある場合に、
「知り合いに相談したら、飛び出した痔は指で戻したらいいと言われ、やったら余計ひどくなりました…」
という方がいらっしゃいます。
飛び出している(腫れている)ものが、内痔核か血栓性外痔核かによって、対処法が正反対なので注意が必要です!
- 内痔核の脱出→指で戻すと肛門の中に戻り痛みが改善!
- 血栓性外痔核→指で押すと戻った感じはするが実は戻ってなくて痛みが悪化!
内痔核が脱出している場合は、指で押すと肛門の中にもどり、うっ血が改善することで痛みが良くなります。
一方、血栓性外痔核はそもそも外側の成分が腫れているので、指で押しても戻りません。
頑張ってグイグイ押すとかえって腫れがひどくなり痛みが悪化します。
少し押して戻らない時、どちらか迷った時は、早めに肛門科で診察を受けてください。
嵌頓(かんとん)痔核にも要注意
内痔核の脱出も必ずしも指で押して戻るわけではありません。
嵌頓痔核といって腫れが強い状態になると、指で押しても戻りません。
そして激痛です、出血をする場合もあります。
この場合は早めに肛門科を受診しましょう。
すぐに受診できない場合は、まずは市販の痔の軟膏を塗ってもOKです。
また、お風呂に入ったりしておしりを温めると痛みが改善しますのでやってみてください。
いぼ痔(痔核)について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

裂肛(切れ痔)
「便秘で便が硬くなって、トレで頑張って出したらおしりが切れました」
「以前から切れ痔があって繰り返しています」
切れ痔の痛みで来院される方も多いです。

切れ痔は、肛門の上皮が裂けることで発生し、特に硬い便の排出時に激しい痛みを引き起こします。
排便時の痛みが強く、排便後もしばらく持続することが特徴です。

上の写真のような急性裂肛は自然治癒や、軟膏などの治療で改善することが多いです。
しかし切れ痔を繰り返して慢性化すると、
見張りイボや肛門ポリープとういう構造物ができたりして、治りにくくなったり、
肛門上皮が硬くなることで切れやすくなったりして、切れ痔が悪化する悪循環に陥ります。
切れ痔を長期間放置すると肛門狭窄の原因にもなり、手術が必要になる場合もありますので、早めの治療が大切です。
日頃から切れ痔でお悩みの方は、早めに肛門科で相談をしてください。
切れ痔(裂肛)の予防は排便コントロールが最も大切!
軟膏には予防効果はありません。
切れ痔の予防には、便通のコントロールが最も大切です。
硬い便も下痢もNGです!
切れ痔の治療中や予防のためには、
「ねり歯磨き粉ぐらいの硬さ」を目指してコントロールしてください。
具体的には1日1.5〜2リットルの水分摂取、
食物繊維をしっかりとり、バランスの良い食事を心がけましょう。
切れ痔についてより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

肛門周囲膿瘍・痔瘻
「3日前からおしりに違和感があって、昨日の夜から急にはれて激痛です」
「以前にはれたところがまた腫れて痛いです」
「おしりの脇が腫れてて膿も出ていて痛いです」
肛門周囲膿瘍や痔瘻が原因の痛みも多いです。

肛門周囲膿瘍は、肛門の周囲に膿がたまることで発生し、強い痛みや腫れを伴います。
38℃以上の発熱を伴うこともあり、悪化すると皮膚が破れて膿が出ることもあります。
肛門周囲膿瘍の原因の一つに痔瘻があります。
痔瘻は、肛門の入り口から少し入ったところからトンネル状の管ができた状態で、肛門周囲に慢性的な炎症を繰り返します。
肛門周囲膿瘍は自然に破れて膿がでると、痛みは改善します。
しかし、自然に膿が出ない場合は、皮膚を切開して膿を出す処置が必要です。
膿がたまった状態を放置すると、周囲に膿が広がって、敗血症や壊死性筋膜炎という命に関わる状況になることもあるため、早めに肛門科や外科を受診してください!
また、痔瘻は症状が落ち着くことはありますが、自然治癒することはありません。
軟膏などの治療では治らないので、根治には手術が必要です。
痔瘻・肛門周囲膿瘍について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

肛門狭窄
肛門狭窄(きょうさく)は、何らかの原因で肛門の上皮が硬くなり、排便時に痛みを伴う状態です。
切れ痔をくり返していることや、肛門の手術後に発生することがあり、特に排便時に強い痛みを感じます。
狭窄が強くなると小指も通らなくなることもあります。
軽度の場合は、軟膏や、ブジーといって肛門を拡張する処置で改善することがありますが、
重度の場合は手術による拡張が必要になります。
直腸脱
「最近おしりから何か出て痛いし、出血もします」
「指で押すと戻りますが、またすぐに出てきて困っています」
こんな症状で来院される方もいらっしゃいます。
直腸脱は、直腸が肛門から外に飛び出す状態で、違和感や痛みを伴います。

高齢者や便秘の人、出産経験の多い女性に多くみられます。
脱出は2〜3cmのこともあれば、10cm以上になることもあります。
脱出が少しの場合は手で押し戻すことができますが、
脱出が大きくなると戻すのが大変になったり、
戻してもまたすぐに脱出してしまい、生活の質(QOL)が低下します。
直腸脱は軟膏などの治療では治らないため、根治のためには手術が必要です。
また、直腸脱は全体に飛び出るような内痔核と区別がつきにくいこともあり、
痔だと思っていたら実は直腸脱だったということもあります。
おしりから何かが出て困っている時は、一度肛門科で診察を受けましょう。
直腸脱について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

肛門周囲の皮膚炎・湿疹
「最近おしりがかゆくて痛くて眠れません」
「おしりが痛がゆくて、市販の軟膏を使っていましたが、全然良くなりません」
「おしりのまわりの皮膚があれていて痛いです」
おしりのかゆみを伴う痛みで受診される方も多いです。

アレルギー反応や感染症、刺激物の使用によって肛門周囲の皮膚が炎症を起こすことがあります。
かゆみや痛みが主な症状で、無意識にかきむしることでさらに悪化することもあります。
適切なスキンケアが基本で、軟膏などの抗炎症剤の使用や、原因となる感染症の治療が有効です。
かゆみが中止のことも多いので、まずは市販の軟膏で対処する方も多いです。
しかし、カンジダなどの感染症が原因の場合は、ステロイド入りの軟膏を使うとかえって悪化するので注意が必要です。
市販の軟膏を使っても数日でで痛かゆさが改善しない時は、早めに肛門科か皮膚科を受診しましょう。
直腸がん

大腸がんのなかで、肛門付近の直腸にできるがんを直腸がんといいます。
基本的には直腸の中に腫瘍はとどまりますが、進行すると肛門部まで病変が広がり、おしりの痛みが出現する場合があります。
ここまで進行すると出血も伴うため、「痔の痛みと出血だろう」と思う人もいます。
「長年のおしりの痛みがあり、痔だと思っていたら実は進行直腸がんだった」というケースもあります。
おしりの痛みが続く場合には癌の可能性もあるので注意が必要です。
必ず肛門科で診察を受けてください。
肛門がん(扁平上皮癌)
肛門管がんは、肛門管(肛門の内側の部分)に発生する悪性腫瘍で、極めてまれな病気です。
初期の段階では自覚症状が少なく、軽度の出血や違和感程度であることが多いため、痔と思って様子をみている人もいます。
しかし、進行すると排便時の痛み、肛門周囲のしこり、持続的な出血が見られるようになります。
診断には生検が必要であり、治療には放射線療法や化学療法が組み合わされることが一般的です。
おしりの痛みの原因としては、
これまで述べてきた命にかかわらない良性の病気がほとんどです。
しかし、直腸がんや肛門管がんなど命に関わる重大な病気のこともゼロではありません。
痛みが続く場合は自己判断で様子をみず、一度肛門科で診察を受けてください。
痔瘻がん
痔瘻がんは、長期間放置された痔瘻ががん化することで発生する非常にまれな病気です。
普通の痔瘻が癌化する可能性は低いのですが、
複雑な痔瘻を長期間放置した場合には痔瘻癌が発生する可能性がありますので、注意が必要です。
長期間続く痔瘻の炎症が原因とされ、通常の痔瘻と異なり、治りにくい潰瘍や出血、悪臭を伴うことがあります。
進行すると肛門周囲の組織を破壊し、痛みが強くなります。
診断には生検が必要であり、治療は手術が中心となりますが、予後の悪い病気です。
無症候性肛門痛(肛門神経痛)
無症候性肛門痛は、肛門や直腸に明らかな異常がないにもかかわらず痛みを感じる病態です。
日頃診療をしていると無症候性肛門痛の方は結構多いです。

主に、
- 突発性直腸痛
- 持続性直腸痛
の2種類に分類されます。
突発性直腸痛は、一時的に強い痛みが走るが短時間で消失するタイプで、特に夜間に発生しやすい傾向があります。
一方、持続性直腸痛は、長時間にわたり鈍い痛みが続くもので、ストレスや自律神経の乱れが関与していると考えられています。
排便とは無関係に発症することが多く、座っている際に悪化する場合もあります。
治療には神経調整薬や抗不安薬が用いられ、生活習慣の見直しも有効です。
おしりが痛い時にはどうしたらいいの?
突然のおしりの痛みはおどろきますし、
慢性的なおしりの痛みはとてもつらくて、
どうしたらいいか迷ってしまいますよね。
「そのうち治るかも」と思って様子を見たくなる気持ちもよくわかります。
でも、おしりの痛みには、これまで述べてきたように、
軽いものから放置すると悪化するものや、命に関わる癌までさまざまな原因があります。
一時的な痛みで自然に良くなることもありますが、
強い痛みや、出血・しこり・痛みが長く続く場合は注意が必要です。

早めに肛門科の専門医の診察を受けることで、原因をしっかり調べて、適切な治療を始めることができます。
「まだ大丈夫かな」と我慢しているうちに症状が悪化してしまうこともあるため、
少しでも気になる症状があれば、無理せず肛門科の病院で相談をしてください。
おしりの痛みは、早めに対応することで、楽に過ごせる毎日を取り戻すことができます。
おひとりで悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。
草加西口大腸肛門クリニックでの【おしりが痛い】ときの診療

私が院長をしている草加西口大腸肛門クリニックにも、
「おしりの痛み」で非常に多くの方がご相談にいらっしゃいます。
当院での「おしりが痛いとき」の診療の流れは以下のようになっています。
問診
まずは問診で、おしりの痛みが、
- どのような痛みか
- どのくらい痛いか
- いつから痛いのか
- おしりの腫れの有無
- 排便の様子
- 出血の有無
- 発熱の有無
- 治療中の病気や内服薬
などを丁寧にうかがいます。
当院での『はずかしくないおしりの診察』
おしりの診察」というとだれもが恥ずかしさと不安でいっぱいだと思います。
「どういうふうに診察をするのかが分からないので不安です…」
実際に問診の際にはこのような声をよくお聞きします。
当院では、患者さんが恥ずかしくないように、
プライバシーに最大限配慮したおしりの診察を心がけています。
また、痛みが強い場合には、無理はせず可能な範囲で丁寧に診察を進めていきますのでご安心ください。
当院でのおしりの診察の手順は以下のとおりです。
① カーテンの中で、ズボンや下着をおしりが見えるくらいまで下ろして、診察台に横になっていただきます。
② おしりに清潔なシートをかけます。これで診察の準備が完了です。

③ 視診察(見て観察)をします。
④ 指診察(指で診察)をします。
⑤ 肛門鏡(こうもんきょう)で診察をします。
肛門鏡は下の写真のような小さな器械で、痔の様子などを詳しく観察できます。

⑥ 診察が終わりましたらカーテンの中でゆっくりお着替えをしていただきます。
おしりの診察のながれは以上です。
なんとなくイメージしていただけましたでしょうか?
診察時間は1〜2分程度です。
女性の診察の場合には、女性スタッフがすぐそばにおりますので、安心して診察を受けていただけます。
『肛門エコー』おしりの痛みの診断に有用です!

肛門エコー(超音波検査)は痛みの原因の特定に非常に有用です。
肛門周囲膿瘍の場合、通常指を使って診断をしていきますが、
肛門エコーを使うことによりビジュアル的に膿瘍を確認できます。
また、炎症や膿の広がりや膿のたまり具合なども客観的に評価できます。
さらに痔瘻の管までわかります。
肛門エコーは指よりも細い棒状の機械を使用するため、痛みはほとんどありません。
当院では、通常の肛門診察(見る、指で触る、肛門鏡)に加えて、肛門エコーを使うことにより、より精度の高い診察を行なっています。
診断名の説明と処置、追加の検査のご案内

ここまでの診察での所見から、現時点での診断名をお伝えします。
いぼ痔や切れ痔などの場合は治療のご案内をし、
肛門周囲膿瘍で切開排膿が必要な場合は処置を行います。
また、大腸内視鏡検査などの追加の検査が必要な場合には検査のご案内をします。
症状の内容によってはより高度な検査や治療が必要となる場合もありますので、
その際には連携する総合病院をご紹介いたします。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。
『おしりが痛いときの原因や対処法について』お分かりいただけましたでしょうか。
おしりの痛みの原因は、
よくあるいぼ痔や切れ痔などから、
大腸がんや肛門管がんなど命に関わる重大な病気まで様々です。
- 痛みが強い
- 痛みが継続する
- 出血などを伴う
- いつもと痛みの感じが変わってきた
そんな時は、自己判断して放置せずに、早めに肛門科の病院を受診して相談をしてみてください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 皆様の病気の予防・早期発見・早期治療
- 皆様が大腸肛門科を受診する際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎草加西口大腸肛門クリニック