「夜におしりがかゆくて眠れません」
「おしりがかゆくで勉強や仕事に集中できません」
「ついついかいてしまいます」
こんな悩みでお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
おしりのかゆみは、単なる皮膚のトラブルではなく、
- 痔
- 湿疹
- カンジダ感染
- 肛門周囲の衛生状態
- 排便習慣・生活習慣
など様々な原因が隠れていることがあります。
市販の軟膏などで改善することも多いですが、
放置すると悪化し、治療まで非常に時間がかかることもあります。
この記事では、肛門科医の視点から「おしりかがかゆい原因となる病気」について解説をしていきます。
この記事の内容
- おしりがかゆい原因となる病気や生活習慣
- おしりがかゆいときはどうしたらいいの?
- 草加西口大腸肛門クリニックでの【おしりがかゆい】ときの診療
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。

この記事を読めば、『おしりのかゆみの原因となる病気』について知ることができ、対処法がわかります。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
それでは始めていきましょう。
この記事は、草加西口大腸肛門クリニックの院長が専門医の立場から執筆しています
おしりがかゆい原因となる病気
「おしりがかゆいのは何か悪い病気かな?」
と心配になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
おしりのかゆみの原因のほとんどは、物理的な刺激により皮膚が傷つくことが原因です。
この場合は皮膚を安静に保つことで自然に改善することもあります。
しかし、原因によってはしっかりと治療をしないと治らないこともあります。
ここではおしりの痒みの原因となる代表的な病気について見ていきます。
肛門周囲湿疹

肛門周囲の皮膚が物理的に傷つくことによって、かゆみが出ます。
原因としては、
- 排便後の拭きすぎ
- 排便後の拭き残し
- お風呂での洗いすぎ
- 汗でむれる
- ウォシュレットの不適切な使用
- 乾燥
などにより、皮膚のバリア機能が低下することによっておこります。
診察では、皮膚に細かい傷がついていたり、
皮膚がボコボコと厚くなったり、赤みが出ていたり、
プールの後の手のように皮膚が白っぽくふやけたようになっていることもあります。
また、「かゆみ」だけでなく、「痛み」も伴うことがあり、
患者さんはよく「いたがゆい」とおっしゃいます。
菌などの感染がないことが多いため、
ガリガリかくなど、新たな刺激を加えず、清潔に保つことで症状が改善していきますが、
自然に改善しない時は、保湿剤や、ステロイド入りの軟膏を使って治療をします。
ウォシュレットは正しく使っていますか?

みなさん、ウォシュレットの「水の強さ」は何に設定していますか?
推奨は「弱」です。
ウォシュレットは本来、排便後に肛門部などの汚れを落とすために使います。
これであれば「弱」で十分なはずです。
しかし、中にはウォシュレットをおしりに強く当て、
直腸の中に直接水が入るくらいの強い勢いで使い、
その刺激で排便をうながしている人もいます。
これにより、直腸の中に入った水が後で少しずつ肛門から出てきて、
肛門周囲の皮膚荒れの原因になることがあります。
このやり方のもう一つのよくない点は、
「ウォシュレットの刺激がないと排便できない」体になってしまうことです。
ウォシュレットの無い場所での排便が不安になり、
排便したいけど我慢するなどして、、便秘の原因になったりもします。
日頃ウォシュレットを「強」で使っている人は、まず1段階下げて「中」にして、最終的には「弱」で使えるようにしてみてください。
カンジダ症

カンジダ症は、カンジダというカビ(真菌)が原因となる感染症で、肛門周囲のかゆみを引き起こします。
カンジダは皮膚や粘膜にいる常在菌ですが、免疫力が低下しているときなどに増殖して炎症を起こすことがあります。
カンジダは特に湿気の多い環境で増殖しやすく、下着の蒸れや長時間の座位が影響します。
痒みの他に、皮膚の赤みや白いカスのようなものがみられることがあります。
女性の場合は、膣や外陰部にカンジダ症を発症することもあり、これが肛門周囲まで広がっている場合もあります。
診断は、綿棒で皮膚をこすり、専用の培地につけて、カンジダの培養検査を行います。

カンジダが陽性の場合は、抗真菌薬で治療を行います。
市販の軟膏でなかなか良くならないときはカンジダかも?

一般的な市販のかゆみ止めには、「ステロイド」が入っていることが多いです。
ステロイドは感染のないかゆみなどには効果的です。
一方で、ステイドには「免疫を抑える作用」があります。
このため、カンジダなどの感染症が原因の場合には、
免疫や皮膚バリアが弱まることで、カンジダの増殖を助け、かえって症状が悪化します。
すぐに病院を受診できずに、
「市販の軟膏をつかってみたけど、かえった悪化した」
という場合はすぐに使用を中止して、病院を受診してみてください。
カンジダが原因かどうかを確認し、抗真菌薬で適切に治療をすることが、早く良くなるための近道です。
接触性皮膚炎
接触性皮膚炎は、何らかの刺激物に触れることで皮膚が炎症をおこし、かゆみが生じます。
日常での刺激物としては、
- トイレットペーパーの香料
- 漂白剤
- ボディーソープ
- 衣類の洗剤
- 下着の素材
などが原因になります。
接触性皮膚炎の場合は、原因物質の特定が重要であり、それを避けることで症状が改善します。
症状がひどい場合は、抗アレルギー薬の内服や、ステロイドの外用薬が有効です。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎を持つ人は、皮膚のバリア機能が低下しているため、
肛門周囲の皮膚も乾燥しやすく、かゆみを引き起こします。
特に冬場や、ストレスがかかった時に悪化しやすく、かくことで炎症が広がることがあります。
日頃から保湿を徹底し、炎症が強い場合は皮膚科医の指導のもと、ステロイドや抗炎症薬を使用します。
寄生虫感染(ギョウ虫症)
寄生虫感染の中でもギョウ虫症は、肛門周囲の強いかゆみを伴います。
昔は、学校でのギョウ虫検査(セロファン法)も行われていましたが、
衛生環境が改善したことにより陽性率は激減し、2016年度をもって学校での定期的な検査は廃止されています。

ギョウ虫は人から人へと移る「人にしかいない寄生虫」です。
「土の中にいる虫」や「野菜についてくる寄生虫」とは異なり、ギョウ虫は完全に人間依存の生活サイクルを持つことが特徴です。
ギョウ虫の生活サイクル
- 卵を含んだ手指や物品を介して、人が卵を口にする(経口感染)。
- 卵が小腸で孵化し、成虫は大腸に移動・定着。
- 成虫のメスが夜間に肛門から外に出て肛門周囲に産卵。
- 肛門のかゆみによって無意識にかきむしり、手指や周囲に卵が拡散。
- 卵がまた口に入ることで自家感染を繰り返します。
ギョウ虫症の診断は、現在もセロファンテープ法による早朝の肛門周囲の虫卵検出が基本です。
治療は駆虫薬を内服します。
日本国内におけるギョウ虫症は、過去の集団感染疾患から、現在ではごくまれな寄生虫症へと変化しています。
ただし、発生が完全にゼロになったわけではなく、特に集団保育の場や衛生状態が万全でないケースにおいては、引き続き注意が必要とされます。
もし、お子さんのおしりをかゆみが続く場合は小児科で相談をしてみてください。
痔

痔もお尻のかゆみの原因になります。
痔は大きく分けて以下の3種類があります。
- いぼ痔(内痔核・血栓性外痔核)
- 切れ痔(裂肛)
- 痔瘻(じろう)
肛門付近のいぼ痔が擦れることで炎症が起こり、かゆみが出ることがあります。
また、切れ痔では、切れた傷が治る過程でかゆみが出ることがあります。
痔瘻の場合は、皮膚の穴から膿(うみ)が出ることにより、膿により皮膚が刺激されかゆみを引き起こします。
いぼ痔や切れ痔は症状が自然に改善することもありますが、
一方、痔瘻は自然治癒はしません。
膿が出続けてかゆくて困っている場合は、痔瘻を治す手術が必要となります。
いぼ痔(痔核)、切れ痔(裂肛)、痔瘻・肛門周囲膿瘍について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。



おしりがかゆいときにはどうしたらいいの?
おしりのかゆみは、多くの方が一度は経験したことがあるのではないでしょうか?
少しかゆいくらいでは、なかなか病院を受診しにくいと思います。
そこでまずは、自宅でできるかゆみ対策をお伝えします。
数日たっても改善せず、かゆくて困っている場合は病院を受診してください。
清潔を保つ

肛門周囲が便で汚れていたりすると、便の刺激でかゆい場合もあります。
毎日シャワーやお風呂で、肛門周囲を清潔に保ちましょう。
ただし、お風呂用のタオルなどで念入りにゴシゴシと洗いすぎると、
皮膚のバリアが破壊されて、逆に皮膚が傷つき、かゆみの原因となるので、
手でやさしく洗うことが大切です。
石鹸は使ってもいいのですが、ピリピリしたり、かゆみが増す場合は、肌に合わない可能性もあるので、無理して使わず、お湯だけで洗うようにしてください。
保湿をする
乾燥が原因でかゆみが出る場合は、保湿剤を使用すると効果的です。
- ワセリン
- ヒルドイド(主成分:ヘパリン類似物質)に類似したような市販薬
などの保湿剤を使ってみてください。
通気性のいい下着を選ぶ
通気性が悪く蒸れることによってかゆみが悪化している場合もあります。
その際は、化学繊維の下着ではなく、綿素材などの通気性の良いものを選んでください。
かゆみ止めを使用する
市販のかゆみ止めや、抗炎症クリームを塗ることで、症状をやわらげることができます。
ただし、カンジダなど感染症が原因の場合は、ステロイドの使用により症状が悪化することがあるので、注意が必要です。
症状が続く場合は医師に相談
これらの治療をしても、
- 数日たっても改善しない
- 市販薬でも改善しない
- かゆみに加えて痛みや出血や腫れがある
このような場合は早めに病院を受診してください。
草加西口大腸肛門クリニックでの【おしりがかゆい】ときの診療

私が院長をしている草加西口大腸肛門クリニックにも、
「おしりのかゆみ」で非常に多くの方がご相談にいらっしゃいます。
当院での「おしりがかゆいとき」の診療の流れは以下のようになっています。
問診
まずは問診で、おしりのかゆみが、
- どのようなかゆみか
- どのくらいかゆいか
- いつからかゆいのか
- どのようなときに悪化するのか
- おしりの腫れの有無
- 排便の様子
- 出血の有無
- 治療中の病気や内服薬
などを丁寧にうかがいます。
当院での『はずかしくないおしりの診察』
おしりの診察」というとだれもが恥ずかしさと不安でいっぱいだと思います。
「どういうふうに診察をするのかが分からないので不安です…」
実際に問診の際にはこのような声をよくお聞きします。
当院では、患者さんが恥ずかしくないように、
プライバシーに最大限配慮したおしりの診察を心がけています。
また、痛みが強い場合には、無理はせず可能な範囲で丁寧に診察を進めていきますのでご安心ください。
当院でのおしりの診察の手順は以下のとおりです。
① カーテンの中で、ズボンや下着をおしりが見えるくらいまで下ろして、診察台に横になっていただきます。
② おしりに清潔なシートをかけます。これで診察の準備が完了です。

③ 視診察(見て観察)をします。
④ 指診察(指で診察)をします。
⑤ 肛門鏡(こうもんきょう)で診察をします。
肛門鏡は下の写真のような小さな器械で、痔の様子などを詳しく観察できます。

⑥ 診察が終わりましたらカーテンの中でゆっくりお着替えをしていただきます。
おしりの診察のながれは以上です。
なんとなくイメージしていただけましたでしょうか?
診察時間は1〜2分程度です。
女性の診察の場合には、女性スタッフがすぐそばにおりますので、安心して診察を受けていただけます。
カンジダ培養検査
症状や所見から、カンジダの感染が疑われる場合は、カンジダ培養検査を行います。
診断名の説明と処置、追加の検査のご案内

ここまでの診察から、現時点での診断名をお伝えします。
かゆみの原因が、肛門周囲湿疹や皮膚炎であれば、ステロイド入りの軟膏などの外用薬を使った治療を行います。
また、かゆみ止めの内服薬などの処方もします。
カンジダの培養を行った場合は、結果が出るまで約1週間かかるため、
まずは通常のかゆみに対する治療をご案内し、後日結果をお伝えし、カンジダ陽性の場合は専用の抗真菌薬による治療をご案内します。
また、女性の場合には膣や外陰部のカンジダ症を合併していることもありますので、
必要に応じて婦人科の受診をご案内したします。
さらに、皮膚の病気の一部として、おしりのかゆみが出ている可能性がある場合は、
当院で最初の対応を行い、皮膚科の病院をご案内いたします。
おしりのかゆみはデリケートな悩みのため、病院を受診するのをためらってしまいますよね。
「まだ大丈夫かな」
「はずかしいから病院に行きにくいな」
と自己判断で放置すると悪化し、治るまで時間がかかってしまいますので、
はやめに受診して相談をしてみてください。
つらいかゆみをお一人で我慢せず、どうぞお気軽にご相談ください。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。
『おしりがかゆいときの原因や対処法について』お分かりいただけましたでしょうか。
おしりのかゆみの原因は、
物理的な刺激などが原因の「肛門周囲湿疹」のことが多いですが、
中には、カンジダ症や、皮膚の病気が原因の場合もあります。
- 数日たっても改善しない
- 市販薬でも改善しない
- かゆみに加えて痛みや出血や腫れがある
そんな時は、自己判断して放置せずに、早めに肛門科や皮膚科の病院を受診して相談をしてみてください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 皆様の病気の予防・早期発見・早期治療
- 皆様が大腸肛門科を受診する際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
当院の診療について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください