トイレでおしりをふいた時に紙に血液が付いた経験はだれでもあると思います。
「ちょっと出血しただけだから大丈夫」
「たぶん痔からの出血だろう」
そう思って、トイレの水を流してしまう方がほとんどではないでしょうか。
でも、
「排便後に便器が真っ赤になった」
「最近出血の回数が多い」
「最近下痢気味」
「お腹の痛いことも多い」
「そういえば黒い便も出ている」
こうなってくるとかなり心配になりますよね。
おしりからの出血を「たまたま」「痔だろう」と思って放置するのは大変危険です。
おしりからの出血はあなたの体があなたに、大腸がんなどの命に関わる病気の危険を伝えてくれているサインです。
この記事を書いた私の名前は『金澤 周(かなざわ あまね)』です。
埼玉県草加市にある『草加西口大腸肛門クリニック』の院長です。
また、大腸と肛門の専門医であり指導医でもあります。
これまでに血便や下血で悩む患者さんを10,000人以上診察してきました。
これまでの経験をもとにこの記事では
- 血便と下血とは?
- 血便や下血の原因は?
- 血便と下血の診察や検査について
- 血便や下血の原因となる大腸がんについて
- 血便や下血で悩む患者さんからのよくある質問
について詳細に解説をしていきます。
この記事を読むだけで血便や下血に対する対処法がわかります。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
それでは始めていきましょう!
血便と下血とは?
血便と下血はどちらも肛門から出血することを言います。
2つの違いは『色』です。
血便は便に鮮血(赤い血)が混ざっていて赤色の状態。
下血は古い血が混ざることにより便が黒くなっている状態です。
出血してから時間がたつにつれて便に混ざる血液の色は赤色から黒色に変化していきます。
このため、血が出ているとこるが肛門に近いほど血液は赤く遠いほど黒くなります。
胃や十二指腸など肛門から遠いところからの出血ほど便の色は黒くなりタール便と言われたりもします。
血便の色と病気の関係については以下の記事をご覧ください。
血便や下血の原因は4つ
おしりから血便や下血があった時に私たち大腸肛門科医が考える病気は以下のものがあります。
- おしりから出てきたり痛みがあったりする『痔』
- 腸に炎症がおこる『腸炎』
- 胃や十二指腸からの出血
- 命に関わる大腸がん
大きく4つのものがあります(病気の詳しい説明は後で述べていきます)。
このなかで最も注意が必要なものは『大腸がん』です。
『大腸癌』の患者さんのよくある経過は以下の通りです。
- 「数年前からおしりからの出血があったが痔と思って放置」
- 「数ヶ月前から便が出にくくなり、最近は下痢・血便・下血になってきた」
- 「不安になり病院を受診して大腸内視鏡検査で大腸に進行癌が見つかる」
といったケースです。
大腸がんは命にかかわります。
痔からの出血の可能性もありますが一度は診察を受けてください。
そのため、おしりから血が出る時は肛門科受診をおすすめします。
血便と下血の診察のながれ
血便や下血などで肛門科を受診した時の診察手順は以下の通りです。
① 問診
患者様の症状やこれまでの経過をおうかがいします。
② 肛門診察
肛門の近くに出血の原因となりうる病気がないかを診察します。
指や肛門鏡という専門の器具を使って診察をします(後ほど詳しくお話しします)。
肛門診察の時間は1〜2分程度となります。
③ 診断名の決定
現状で考えられる診断名をお伝えします。
④ 痔が原因で出血していると考えられる場合
軟膏や内服薬による治療をご案内し、1〜2週間後に必要に応じて再受診していただきます。
再受診の際に血便・下血が続いていた場合は大腸内視鏡検査をお勧めいたします。
⑤ 大腸からの出血の可能性がある場合
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)をおすすめします。
※胃や十二指腸からの出血の可能性がある場合は上部消化管内視鏡検査をおすすめします。
血便や下血の際の『はずかしくないおしりの診察』
「おしりの診察」というと皆さん恥ずかしさと不安でいっぱいだと思います。
「おしりの診察は恥ずかしいからなかなか来られなくて...」
「どういうふうに診察をするのかが分からないので不安です...」
実際に問診の際にはこのような声をよくお聞きします。
草加西口大腸肛門クリニックでは患者さんが恥ずかしくないようにプライバシーに最大限配慮したおしりの診察を心がけています。
当院でのおしりの診察の手順は以下のとおりです。
① カーテンの中でズボンや下着をおしりが見えるくらいまで下ろして診察台に横になっていただきます。
② おしりに清潔なシートをかけさせていただきます。これで診察の準備が完了です。
③ 視診察(見て観察)をします。
④ 指診察(指で診察)をします。
⑤ 肛門鏡(痔の様子などを詳しく観察できる特殊な器械)で診察をします。
⑥ 診察が終わりましたらカーテンの中でゆっくりお着替えをしていただきます。
おしりの診察のながれは以上です。
診察時間は1〜2分程度です。
女性の診察の場合には女性スタッフがすぐそばにおりますので安心して診察を受けていただけます。
血便や下血での大腸内視鏡検査
おしりの診察の後に大腸からの出血が疑わしい場合には大腸内視鏡検査をおすすめします。
先に述べたように血便や下血は大腸がんのサインの可能性もあり、命に関わる病気を知らせる体の悲鳴です。
そのため大腸内視鏡検査を行い血便や下血の原因を特定していきます。
当クリニックでの大腸内視鏡検査は、痛みや恥ずかしさはほとんどありません。
これまで10,000例以上の大腸内視鏡検査をしてきましたので、痛みが出ないテクニックを体得しています。
また『つらくない内視鏡検査』のため、鎮静剤や鎮痛剤も使用しています。
患者さんからもよく、
「痛みがなくて楽でした」
「こんなにスムーズに終わるなら早めに受けておけばよかった」
などの嬉しい言葉をたくさんいただきます。
また、当クリニックの大腸内視鏡検査は院長の私が全て担当しております。
このため過去の検査情報を十分に生かすことで、患者さん一人一人に個別化した内視鏡検査『テーラーメード内視鏡』が可能となっています。
また、大腸内視鏡検査のときの体勢は以下のようになります。
おしりが少しだけ見える検査着を着ていただきます。
「恥ずかしくて無理」
などと言われる患者さんもこれまでいらっしゃいません。
検査時間も20分程度です。
このように当クリニックでは、痛みや恥ずかしさがなく安心して受けられる大腸内視鏡検査を行っています。
以下に検査の予約から検査終了までの流れを簡単にまとめてみました。
血便や下血で考えられる病気
先ほど血便や下血では大きく分けて4つの病気が考えられると述べました。
ここではより細かく説明していくために12個に分けました。
私たち大腸肛門科医が考える血便や下血の原因の12の病気は以下です。
- 大腸がん
- 痔核(いぼ痔)
- 裂肛(切れ痔)
- 痔瘻
- 直腸脱
- 感染性腸炎
- 虚血性腸炎
- 薬剤性腸炎
- 大腸憩室出血
- 潰瘍性大腸炎
- クローン病
- 胃・十二指腸・小腸からの出血
それでは順番にみていきましょう。
1.大腸がん
おしりからの出血で最も注意しなければならないのは大腸癌です。
私はこれまで大腸肛門科外科医として多くの大腸がんの患者さんの診療に関わってきました。
冒頭でも述べましたが典型的なよくある経過としては
- 「数年前からおしりからの出血があったが痔と思って放置」
- 「数ヶ月前から便が出にくくなり、最近は下痢・血便・下血になってきた」
- 「不安になり病院を受診して大腸内視鏡検査で大腸に進行癌が見つかる」
といったケースです。
大腸がんは初期の場合は目に見える血便や下血は起こりません!
血便や下血が自覚できるようになった段階では病状が進んでいることが多いです。
大腸がんの早期発見のためには見えない出血を調べることが必要です。
目に見えない出血を調べるには後で詳しく説明する『便潜血検査』が重要となります。
便潜血検査は2日間の便を採取します。
1日でも陽性になった場合には必ず大腸内視鏡検査を受けましょう。
非常に早期の癌であれば、大腸内視鏡で切除し治療が完了します。
ただ、ある程度まで進行した場合には外科的手術が必要となります。
さらに大腸以外の臓器(肝臓や肺など)へ癌がひろがっていると手術だけでは治すことができず、抗がん剤による治療が必要となります。
大腸がんに限らず全ての病気に言えることですが、まずは病気の予防が一番重要です。
その次に重要なのは、病気の早期発見・早期治療です。
血便や下血など異常を感じた時は怖がらず、恥ずかしがらず、大腸肛門科を受診してみてください。
2.痔核(いぼ痔)
肛門の一部がうっ血して血がたまりいぼのようになります。
最も多いタイプの痔です。
血が出たりおしりから飛び出してきたりします。
痔核(いぼ痔)は歯状線(肛門のふちから2cmほど中にある)の内側にできる内痔核と外側にできる外痔核があります。
内痔核は通常痛みがありません。
外痔核は血栓という血のかたまりを伴うと痛みが出ます(血栓性外痔核といいます)。
痔核(いぼ痔)の診断は肛門診察でおこないます。
内痔核の脱出の程度は1〜4度に分けられます。
内痔核の脱出の程度 | その内容 |
1度 | 便を出す時にほとんど脱出しない |
2度 | 便を出す時に脱出するが自然に戻る |
3度 | 便を出す時に脱出して指で押さないと戻らない |
4度 | 便を出す時以外でも常に脱出している |
内痔核の治療の基本は排便習慣や食習慣の改善で、それに加えて軟膏や飲み薬での治療を行います。
それでも脱出や出血などの症状が良くならなず、生活に支障をきたしている場合には手術も検討されます。
血栓性外痔核は基本的には手術をする必要はなく、軟膏や飲み薬による治療で自然に改善します。
3.切れ痔
硬い便をしたときなどに肛門付近が切れたり裂けたりする状態です。
出血はトイレットペーパーにつく程度の少量のことが多いです。
激しい痛みを伴うため排便を我慢することで、さらに便が硬くなり症状を悪くさせてしますことがあります。
診断は肛門診察でおこないます。
治療の基本は便を硬くしない排便コントロールと軟膏や飲み薬です。
1〜3ヶ月基本的な治療をおこなっても痛みなどの症状が良くならない場合は手術も検討されます。
4.痔瘻
肛門の少し奥には粘液を分泌する穴が多数あり、この穴から最近が侵入して炎症をおこし膿(うみ)がたまった状態を肛門周囲膿瘍といいます。
この肛門周囲膿瘍をくり返すと細菌の入り込む穴から膿のたまる部分を通り、さらに皮膚までつながるトンネルができてしまうことがありこの状態を痔瘻といいます。
肛門内から皮膚まで道ができているので、皮膚の出口から膿や血液まじりの膿が出たりします。
痔瘻は軟膏や飲み薬の治療では治りません。
痔瘻は一度できてしまうと自然に治ることはないので手術が必要となります。
5.直腸脱
直腸が肛門から筒状に飛び出してくる状態です。
肛門周囲の筋肉が弱くなった高齢者に起こることが多いです。
直腸が脱出するとこにより血液やべたべたした粘液が出て生活に支障をきたしてきます。
最初のうちは手でおすともどりますが、だんだん戻りにくくなってきます。
直腸脱は軟膏や飲み薬の治療では治りません、しっかりと治すには手術が必要となります。
6.感染性腸炎
細菌やウイルスが腸へ感染し、
- 下痢
- 腹痛
- 嘔吐
- 発熱
- おしりからの出血
などがおこります。
1〜2週間でよくなることが多いです。
ただ、細菌やウイルスの種類によっては腸管出血性大腸菌(O-157)といった命に関わるものもあるために注意が必要です。
7.虚血性腸炎
大腸の血の流れが悪くなることによって起こります。
原因ははっきりしておらず、20歳台の若い人から高齢者まで幅広い世代でおこります。
典型的なパターンは、夜間に左腹部〜下腹部の痛みがあり、そのあとに下痢をして出血をします。
多くは食事制限をして腸を安静にたもつことで自然によくなっていきます。
ただ、痛み・下痢・血便などの症状が強い場合は入院して食事を中止し点滴治療が必要となることもあります。
8.薬剤性腸炎
鎮痛剤や抗生物質を使うことにより腸に炎症を起こす場合があります。
症状としては下痢・腹痛・発熱・出血などです。
血便や下血の起こる前に何かの薬剤を使用したかどうかがポイントです。
治療の基本は可能性のある薬剤を中止することです。
9.大腸憩室(けいしつ)出血
大腸の壁の弱い部分がぶどうの房のように外側に膨れてしまったものを憩室(けいしつ)といいます。
その憩室から大量出血をすることがあります。
腹痛はなく突然出血します。
診断は大腸内視鏡検査で出血した憩室を見つけたり、造影剤を使ったCTで出血している憩室を見つけたりします。
自然に血が止まることもあります。
自然に血が止まらないときは大腸内視鏡検査で出血している血管をクリップという器具で止めて止血をします。
他には、カテーテル治療で出血の原因となっている血管を詰めて止血をする場合もあります。
10.潰瘍性大腸炎
大腸に炎症をおこし、
- 下痢
- 血便
- 下血
- 粘血便
- 腹痛
- 体重減少
などの症状をおこします。
原因は不明で、厚生労働省により難病に指定されています。
現時点でしっかりと治すことのできる治療法はみつかっていません。
潰瘍性大腸炎の患者さんは全国で約16万人(2016年)で、人口10万人あたり約100人です。
20〜30歳の方に多いですが、小児や50歳以上での発症もまれではありません。
経過として、
- 腸の炎症がおこり症状が強くなる『活動期』
- 症状がおさまっている『寛解期(かんかいき)』
があり、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。
診断の際には下痢や出血をおこす他の腸炎と区別することが必要です。
感染性腸炎と区別するために便の培養検査を施行し、大腸内視鏡検査により炎症の範囲や程度を調べて大腸粘膜の一部を採取する生検検査を行います。
それらの結果を総合的に判断して診断を確定します。
さきほど述べたように、現状で潰瘍性大腸炎をしっかりと治すことのできる治療法は見つかっていません。
そのため、薬により大腸の炎症を抑えて症状をコントロールし『寛解期』を続けていくのが治療の基本となります。
薬は飲み薬からスタートします。
症状により坐薬などおしりから入れる薬を一緒に使うこともあります。
飲み薬が効かない場合には点滴治療などを行います。
それらの治療でも良くならない場合には、大腸を全てとる外科手術(大腸全摘術)が検討されます。
11.クローン病
クローン病は主に若年者に発症します。
口にはじまり肛門にいたるまでの消化管(口・食道・胃・小腸・大腸・肛門)のどの部位にも炎症が起こりうる病気です。
そのなかでも主に小腸と大腸を中心として炎症がおこります。
- 腹痛
- 下痢
- 血便
- 体重減少
などの症状をおこします。
原因は不明で、潰瘍性大腸炎とおなじく厚生労働省により難病に指定されています。
現時点でしっかりと治すことのできる治療法は見つかっていません。
クローン病の患者さんは全国で約4万人(2016年)です。
診断は、
- 大腸内視鏡検査
- 胃内視鏡検査
- 内視鏡検査の際に腸や胃の粘膜の一部を採取する生検検査
- バリウムによる小腸の造影検査
- 小腸内視鏡検査
- カプセル内視鏡
- 胃内視鏡検査
- CTやMRI
- 肛門に病変があるかどうかの診察
などを行いそれらの結果を総合的に判断して診断を確定します。
先ほど述べたように、現時点でクローン病をしっかりと治すことのできる治療法は見つかっていません。
治療は薬物療法や、腸の安静を食事からの刺激を避けるための栄養療法や食事療法となります。
腸の炎症が強く小腸や大腸が狭くなり食事ができなくなったり、腸に穴があいたりしてしまった場合には外科手術が必要となります。
12.胃・十二指腸・小腸からの出血
おしりから遠い、
- 胃
- 十二指腸
- 小腸
から出血をすると、タール便とよばれる黒い出血(下血)がおこります。
出血の原因としては、潰瘍や癌などの腫瘍によるものの可能性があります。
診断は胃内視鏡検査や、小腸内視鏡検査、カプセル内視鏡検査などを行います。
血便や下血の中で大腸癌はかなり危険
これまで述べてきたように血便や下血では多くの病気が考えられます。
その中でも最も危険な命に関わる大腸がんをピックアップしてお伝えします。
癌の診療では『進行度(ステージ)』というものが重要です。
大腸がんになった方から、
「あとどれくらい生きることができますか?」
と質問をされることがあります。
大腸がんにかかった方の生存率(あとどれくらい生きることができるのか)は、『進行度(ステージ)』によって変わってきます。
大腸がんの『進行度(ステージ)』は、
- 深達度(癌が大腸の壁をどれくらい深くまで進んでいるか)
- リンパ節転移(癌が大腸の外にあるリンパ節という臓器に広がっているか)
- 遠隔転移(癌が肺や肝臓といった遠くの臓器まで広がっているか)
という3つの要素によって決まってきます。
大腸の壁は以下のように5層構造になっています。
癌が、粘膜内にとどまればステージ0、筋肉の層(固有筋層)にとどまればステージ1、筋肉の層をこえるが周囲のリンパ節に広がっていない場合はステージ2、周囲のリンパ節まで広がっているとステージ3、遠くの臓器に広がっているとステージ4となります。
ステージ | 癌のひろがり具合 | 主な治療法 |
0 | 粘膜内にとどまる | 内視鏡治療 |
1 | 筋肉の層をこえていない | 内視鏡治療、手術 |
2 | 筋肉の層をこえるがリンパ節にはひろがっていない | 手術±抗がん剤 |
3 | リンパ節にひろがっている | 手術+抗がん剤 |
4 | 遠くの臓器にひろがっている | 抗がん剤±手術±放射線 |
ステージによって治療方法も変わってきます。
ステージごとの治療方法のイメージは以下の図です。
ステージ0とステージ1の一部では、内視鏡治療によりがんをほぼ治すことができます。
それ以上になると外科手術がが必要となり、治療に要する時間的・身体的・社会的・経済的負担も大きくなっていきます。
ステージ0のうちに癌を発見(早期発見)し、内視鏡治療(早期治療)をすることは、様々な負担を軽減するという意味でも非常に重要です。
ステージ3からは手術後の抗がん剤治療も必要となります。
抗がん剤は副作用もあり楽な治療ではありません。
ステージ4になると全身に病気が広がっている状態のため、治療の中心は抗がん剤治療となります。
治療のために定期的通院が必要となるとともに病気を完治させることは難しくなってきます。
大腸癌研究会の統計によるとステージごとの5年生存率は以下となっています。
ステージ1の一部までは内視鏡で治療ができ5年生存率も90%以上となります。
ただ、ステージ3になると5年生存率も80%以下と低下します。
そして、ステージ4になると5年間生きることができるのは5人に1人以下となってしまいます。
ステージが進むほど5年生存率は低くなります。
このようにステージは生存率に直結するため、大腸がんの早期発見・早期治療は非常に重要となります。
大腸がんは多くの癌のなかでも、早期発見・早期治療により完治ができる癌です。
毎年検診で便潜血検査を受け、便潜血検査が1回でも陽性になった場合には、必ず精密検査として大腸内視鏡検査を受けてください。
血便や下血での典型的な大腸がん症例
私はこれまで大腸肛門の専門医として多くの血便や下血に悩む患者さんの治療にたずさわってきました。
その中でも印象に残る典型的な患者さんの経緯は以下のとおりです。
- 数年前から会社の検診で便潜血陽性を指摘されていた
- 仕事が忙しく、また自分に限っては大丈夫だろうという根拠のない自信があった
- そのため精密検査である大腸内視鏡検査を受けなかった
- そのうち目に見える出血を時々するようになった
- 家族からも病院の受診をすすめられていたが、痔からの出血だろうと考え病院に行かなかった
- 最終的には排便のたびに出血し、下痢や便秘なども伴うようになって自分でもさすがにまずいと感じで病院を受診する
このような経過の患者さんでした。
これは命にかかわる大変危険な状態です。
ここまで病状が進んでいると、大腸内視鏡検査をしてみると進行癌であることがほとんどです。
こうなると、もう内視鏡での治療はできないため、手術ができる総合病院の外科へ紹介となります。
総合病院では進行度(ステージ)を決めるためにCT検査などいくつもの検査を行います。
そして進行度によって治療方針が決定されます。
ステージ3までであれば完治できる可能性があります。
しかし、ステージ4になってしまうと5年生存率は20%以下になります。
5年間生存できる人は5人に1人以下です。
ステージが進めば進むほど治療にかかる時間的・身体的・社会的・経済的負担もおおきくなります。
休職や仕事を辞めざるをえない方もでてきます・
抗がん剤治療などでの通院が必要となり、治療期間が長くなればなるほど身体的・経済的負担も大きくなり、本人だけでなく家族など治療を支える人にも影響を与えてしまいます。
冒頭の患者さんの場合も、初回の便潜血陽性の段階で大腸内視鏡検査を受けていたら、
早期癌のうちに内視鏡治療で完治できた可能性もあります。
また、ご家族から病院受診を勧められた段階で受診をしていれば手術だけで完治できた可能性もあります。
抗がん剤治療が必要なかったかもしれません。
大腸がんは多くの癌のなかでも、早期発見・早期治療により完治ができる癌です。
毎年検診で便潜血検査を受け、便潜血検査が1回でも陽性になった場合には、必ず精密検査として大腸内視鏡検査を受けてください。
40歳をこえてくると誰でも平等に大腸がんの可能性は増えてきます。
- 自分と大切な人を守るため
- 手遅れにならないため
みなさん一人一人が他人事と思わず、便潜血検査や大腸内視鏡検査を受けてください。
そしてどんな小さなことでもかまいません。
不安や相談があればクリニックにお越しください。
血便や下血で悩む患者さんからのよくある質問
最後に私が日々診療をしていて血便や下血に悩む患者さんからよく聞かれる質問をまとめてみました。
Q. 下血や血便がどれくらい続いたら病院を受診すれば良いでしょうか?
A. これは非常に難しい質問です。
紙にほんの少しだけかすれるような血液がつくのは切れ痔など肛門の病気の可能性が高いです。
- 紙に血がべったりつく、便器が真っ赤になるなど量が多い
- ときどきではなく排便のたびにほぼ毎回出血する
- 血の色が暗い感じの赤色
- 粘液みたいなどろっとしてものも一緒に出る
これらは大腸に病気がある可能性が高いです。
大腸がんなど命に関わる病気の可能性もあるため、早めに大腸肛門科受診をおすすめします。
Q. おしりの診察をする器械はどのようなものですか?
A. おしりの診察をする専用の器械は金属で作られている『肛門鏡(こうもんきょう)』といいます。
当クリニックでは写真のようなストランゲ型と呼ばれる2枚の貝を合わせたような形のものを使用しています。
他には筒の形をしたものもあります。
診察の時には痛みがないように肛門鏡の先端にゼリーをつけます。
ゼリーをつけてすべりがよくなったらおしりに肛門鏡をゆっくりといれます。
何回かにわけて肛門鏡を広げながら痔など肛門の様子を観察します。
痛みが強い時には絶対に無理はしません。
痛みがある場合には小さな小児用の肛門鏡をつかって観察をする場合もあります。
Q. おしりの診察のときにズボンやスカートや下着は全部脱がなくてもいいのですか?
A. ズボンやスカートや下着は全部脱ぐ必要はありません。
肛門部とその周囲が観察できれば十分です。
そのため、おしりが見える範囲でズボンやスカートや下着をおろしていただければ大丈夫です。
当クリニックでは女性の診察の際には女性スタッフも一緒にいます。
女性でも安心して診察を受けていただけるように配慮してます。
Q. おしりの診察は痛くはないですか?
A. おしりの診察は、
- 目で見る診察
- 指での診察
- 肛門鏡を使っての診察
の3段階で行います。
指や肛門鏡を肛門に入れるときは痛み止めのゼリーを使って、痛みが無いように工夫をしています。
それでも痛いと感じた時には遠慮せずにおっしゃってください。
痛みの様子をおうかがいしながら可能な範囲での診察をさせていただきます。
Q. 便潜血検査とはどんな検査ですか?
A. 便潜血検査は、「大腸からの目に見えない出血があるのかどうか」を調べるための検査です。
- 自治体の大腸がん検診
- 会社の健康診断
などで大腸がん検診として広く行われています。
略して『検便』と言われたりもします。
写真のようなキットを使い、便を1日1回、2日に分けてとる『便潜血2日法』がほとんどです。
便潜血検査のメリットは検査費用が安いことです。
自治体の大腸がん検診の場合、当クリニックがある埼玉県草加市は500円となっています。
便をとるだけなので体への負担がないのもメリットです。
2回のうち1回でも陽性がでたら、精密検査として大腸内視鏡検査を受けてください。
日本対がん教会が2017年度に全国で行った便潜血検査のデータでは、
- 10000人中、607人が陽性と判定
- その中で、精密検査(大腸内視鏡検査)を受けた人は417人
- 417人の中から17人に大腸癌が発見された
このようなデータになっています。
大腸がん検診は大腸癌を見つけるためのものです。
ただそれ以外にも大腸ポリープ(大腸癌の元となる良性腫瘍)を発見して、内視鏡治療に結びつけることもできます。
しかし便潜血検査は100%正確ではありません。
便潜血検査が陽性であっても大腸がんでないこともあります。
逆に、便潜血検査が陰性であっても大腸癌でないとも言い切れません。
簡便で負担は少ない反面、確実性がないことが便潜血検査のデメリットといえます。
わたしは診療の中で患者さんに『ある程度大きな大腸癌を見つけるのが便潜血検査です』と説明をしています。
そのため、血便や下血で悩む患者さんには大腸内視鏡検査を受けていただくのをおすすめしています。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。
おしりからの出血は要注意で、
『血便と下血は体の異常のサイン』
ということはお分かりいただけましたでしょうか。
血便や下血の際には一人で悩まず、
「たぶん痔からの出血だろう」と思わず、
できるだけ早めに大腸肛門科を受診してみてください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 皆様の病気の早期発見・早期治療
- 皆様が肛門科を受診する際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎https://soka-ok2.jp