先日、クリニックに血便を主訴に50歳代の患者さんがいらっしゃいました。
患者さん:「最近血便がよく出るし、便も出にくいので来ました」
私:「これまで便潜血検査はしていましたか?」
患者さん:「はい、3年前から毎年ひっかかっていました」
私:「何回陽性でしたか?」
患者さん:「2回です」
私:「大腸内視鏡検査は受けていましたか?」
患者さん:「これまで受けたことはありません」
これは、実際のクリニックでの診療の会話です。
おしりの診察をしてみると手袋に血液がつきましたので、
急いで大腸内視鏡の予定を組んで検査をしたところ、進行大腸がんが見つかりました。
この患者さんは内視鏡では治療できない状態であり手術が必要なため、
総合病院の外科へご紹介をさせていただきました。
これだけの大きさの病気は1−2年でできるものではありません。
おそらく3年前の便潜血2回陽性の時にはすでに、
ある程度の大きさの病気は存在していたと考えられます。
3年前に受診してもらえたらもう少し早い段階で治療ができたのに…
同じような経過の患者さんに出会うたびにそう思います。
この記事では、「便潜血検査が2回陽性のときにどうしたらいいの?」という疑問を解決していきます。
この記事の内容
- 便潜血陽性の基本的なこと
- 便潜血2回とも陽性の確率
- 便潜血2回とも陽性のときの大腸がんの確率
- 便潜血2回とも陽性のときの精密検査【大腸内視鏡検査】実際の2ケースをご紹介
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。
埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。
また、大腸と肛門の専門医であり指導医でもあります。
これまでに便潜血陽性で悩む患者さんを10,000人以上診察してきました。
便潜血が2回陽性は、あなたの体の危険のサインです!
これを読めば、あなたが便潜血検査が2回とも陽性になったときの対応がわかります。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
それでは始めていきましょう。
便潜血検査の基本的なこと
まずは、あなたが受けた便潜血検査について説明をしていきます。
血液には図のような赤血球があり、赤血球には血色素と呼ばれるヘモグロビンが含まれています。
そして、ヒトに特有のヘモグロビンをヒトヘモグロビンといいます。
現在検診で一般的に行われている便潜血検査は、
『免疫法』といい、便のヒトヘモグロビンのみに反応する検査です。
このため、食事で食べた動物の肉などに含まれている血液には反応しません。
また、ヘモグロビンは胃酸や膵液などの消化液で変性します。
このため、口・食道・胃・十二指腸などの出血は検出できず、小腸や大腸の出血を検出しています。
しかし、小腸で出血を起こす病気はとてもまれなため、
『便潜血検査≒大腸の出血を検出』とされています。
ただ、肛門に出血をするような病気があれば、便潜血検査は陽性となります。
便潜血陽性、2回とも陽性の確率は?
便潜血検査で陽性になる人のうち2回とも陽性の割合はいくらだと思いますか?
報告によってもばらつきはありますが、今回参考にした文献1)2)では、
- 便潜血陽性のうち2回陽性の人は約18%
という結果でした。
便潜血陽性の方のうち5人に1人は2回とも陽性になるということです。
便潜血陽性、2回とも陽性のときの大腸がんの確率は?
では次に、便潜血検査が2回とも陽性のときの大腸がんの確率を見てみましょう。
先ほどの文献1)2)からおおまかにまとめると、
- 便潜血検査が2回とも陽性のときの大腸がんの確率は10〜14%
- そのうち約55%は進行がんで発見される
となります。
便潜血2回陽性の場合10人に1人は大腸がんということになります!
ちなみに便潜血検査が1回だけ陽性のときには、
- 便潜血検査が1回だけ陽性のときの大腸がんの確率は約2〜3%
- そのうち約80%は早期がんで発見される
となっています。
つまり、
便潜血陽性回数が1回から2回になることによって、大腸がんの確率は約10%も上昇し、半数以上が進行がんで発見される状況になります。
大腸がんの可能性が3%なら「大丈夫かな?」と感じる人が多いと思いますが、
10%となるとさすがに心配になりませんか?
便潜血陽性、2回とも陽性のときに受けるべき精密検査は?
便潜血陽性の際の精密検査には、『大腸内視鏡検査』と『大腸CT検査』があります。
それぞれの詳細は以下の記事をご参照ください。
ではどちらの検査を受けたらいいのでしょうか?
便潜血が2回とも陽性の時に受けるべき精密検査は『大腸内視鏡検査』です。
便潜血が2回陽性の時は大腸がんや大腸ポリープなどの病変がある可能性が高いため、
検査と治療を同時に行える大腸内視鏡検査が第一選択となります。
非常に初期の早期がんがあった場合には日帰り切除が可能です。
ここで実際にクリニックで早期癌を内視鏡で日帰り切除した患者さんをお二人ご紹介いたします。
便潜血2回陽性、60歳代男性
- 60歳代男性
- 今年の職場の検診で便潜血陽性(+、+)
- 昨年までの毎年の検診では便潜血検査陰性
- 日頃出血などの症状なし
- これまで大腸内視鏡検査をうけたことはない
内視鏡検査を行い、写真のようなポリープがあり、内視鏡で日帰り切除しました。
顕微鏡の組織結果は癌であり、早期大腸がんの診断となりました。
この患者さんは内視鏡治療で完治できています。
便潜血2回陽性、50歳代男性
- 50歳代男性
- 今年の職場の検診で便潜血陽性(+、+)
- 昨年の検診でも便潜血陽性(+)
- 日頃はごくまれに紙つく程度の出血あり
- 最後に大腸内視鏡検査をしたのは10年前
内視鏡で写真のようなキノコ状のポリープがあり、日帰り切除をしています。
顕微鏡の組織結果は癌であり、早期大腸がんの診断となりました。
この患者さんも先ほどの患者さん同様内視鏡で完治ができています。
お二人とも入院の必要なく日帰りで切除ができ完治しています。
もちろん病気の状態によっては、安全性の確保やしっかりと治療をするために、入院をして内視鏡での切除が必要な場合もあります。
また、同じ便潜血2回陽性でも冒頭の患者さんのように進行がんの場合は、総合病院の外科での手術が必要になります。
さらに、進行度によっては抗がん剤治療が必要になることもあり、多くの時間や費用、精神的・身体的負担を伴います。
大腸内視鏡検査は病気の早期発見・早期治療が可能な検査です。
このため、よほどの理由で大腸内視鏡検査が受けられない方以外は、大腸内視鏡検査を受けてください!
便潜血陽性、2回とも陽性のときの大腸内視鏡検のながれ
「大腸内視鏡検査の必要性はわかったけど、受けたことがないから不安で…」
「知り合いから検査が痛かったと聞いて恐怖です…」
みなさま検査の予約の際に、いろいろな不安をおっしゃいます。
ここからは、あなたが便潜血陽性の結果を受け取り、大腸内視鏡検査を受けてその後のながれまでを説明していきます。
大腸内視鏡検査のながれ
最初に便潜血陽性の結果が届いてから、病院を受診して大腸内視鏡検査を受けるまでとその後のながれについて大まかに説明をします。
- 便潜血陽性の結果を受け取る
- 病院を受診
- 診察と検査日の予約
- 検査前日の準備(食事制限、下剤の内服)
- 検査当日の準備(下剤の内服)
- 病院で大腸内視鏡検査
- 検査後の説明
- 後日病理組織検査などの結果説明
おおよそのながれは以上です。
大腸内視鏡検査は、大腸の中がきれいになっていないとしっかりとした検査はできません。
このため、検査の前日には食事制限と下剤の内服があります。
大腸内視鏡検査前の食事制限については以下の記事をご覧ください。
大腸内視鏡検査前後の食事と飲み物について【専門医が徹底解説】
また、検査当日にも下剤の内服があります。
検査の時にポリープ切除などの処置をした場合は、
ポリープ切除後の出血予防のため、検査後数日の食事や運動制限があります。
このため、検査前日と当日、検査後2−3日は食事会や飲み会などの予定は入れない方が無難です。
また、検査の際に少しでも楽に検査を受けていただけるように鎮静剤を使う場合があります。
この場合は眠気・ふらつき・判断力の低下を伴うため、
検査後の車や自転車の運転、危険な作業や大事な決断をする仕事などは入れないでください。
検査当日は1日休みがとれるとベストです。
大腸内視鏡検査日の決め方の6つのポイント
これまでの説明で、
「大腸内視鏡検査の前には少し準備が必要だな」と思っていただけたのではないでしょうか。
そこで、検査日の決め方の6つのポイントをお伝えします。
女性の場合、生理期間中でも大腸内視鏡検査は可能です。
しかし、日頃から腹痛や頭痛などの生理痛が強い場合には、
大腸内視鏡検査で少なからず体に負担がかかりますので、検査日をずらしていただくのをお勧めします。
病院によっては午前中に大腸内視鏡検査を行っていたり、土日に検査を行なっているところもあります。
ご自身の生活スタイルに合った施設で検査をうけていただくことも重要です。
大腸内視鏡検査当日のながれ
ここでは、私が勤務する草加西口大腸肛門クリニックでの検査当日の流れをご紹介します。
受付をします
更衣室で検査着にお着替え
検査室にご案内
スタッフが大腸内視鏡検査室にご案内いたします。
ご案内まではお手洗いをすませて、待合室でお待ちください。
血圧測定・点滴ルート確保
安全な検査のため、検査前の血圧測定や点滴ルートの確保を行います。
鎮静剤・鎮痛剤投与(希望者のみ)
「つらくない検査」を受けていただくために、ご希望の方には検査開始前に、鎮静剤・鎮痛剤の投与を行います。
左向き横向きで検査開始!
準備が整いましたら、左向き横向きの体勢になっていただき、お尻からゆっくりとカメラを入れて検査を始めていきます。
仰向けになります
おしりからカメラが入ったら仰向けになります
大腸の奥まで内視鏡を進めて戻りながら丁寧に観察します
直腸から盲腸まで内視鏡を進めて、ふたたび直腸までもどりながら丁寧に観察をしていきます。
ポリープ切除などの処置を行います
必要に応じてポリープ切除などの処置を行います。
最後に左下横向きになります
最後にもう一度左下横向きになっていただき、一番病気の多い直腸とS状結腸をよく観察してから検査を完了します。
検査時間
検査時間は、観察のみの場合は約15〜20分、ポリープ切除などの処置をした場合は20〜30分となります。
検査後の休憩
必要に応じて休憩室でお休みをしていただきます。
着替えの後に医師からの説明
更衣室でお着替えの後に医師からの結果説明があります。
お着替えの後は待合室でお待ちください。
医師からの説明の際に、検査後の注意点の説明、ポリープ切除などの処置をした場合には組織結果の説明のための次回外来予約をお取りいたします。
お会計後にご帰宅
以上が、草加西口大腸肛門クリニックでの検査当日のながれになります。
検査のイメージをつかんでいただき、少しでも不安が解消されれば幸いです。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきましてありがとうございました。
便潜血検査が2回とも陽性になった場合は、
「日頃症状がないから…」
といって放置しないでください。
便潜血が2回とも陽性の時の大腸がんの確率は約10%もあります!
10人に1人です!
必ず精密検査としての大腸内視鏡検査を受けてください!
大腸がんがなければ何よりですし、非常に早期のがんで見つかれば内視鏡で完治できるチャンスです!
日頃お忙しいとは思いますが、なんとか時間を作って病院を受診してみてください。
なお、便潜血陽性についてさらに知りたい方は以下の記事をご覧ください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 皆様の病気の早期発見・早期治療
- 皆様が大腸内視鏡検査を受ける際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎草加西口大腸肛門クリニック
引用文献
1)福田直子,相良安信,三好宏和,他.大腸癌検診における免疫学的便潜血検査の定量値に関する検討.日消集検誌 2001;39(4):303-306
2)東塚伸一.便潜血検査による大腸癌検診.Sysmex Journal Web Vol.4 No.2 2003