「便潜血陽性になりました…大腸がんでしょうか」
とあわててクリニックを受診する方が多くいらっしゃいます。
「便潜血陽性=大腸がん」ではありません!
正しくは、「便潜血陽性=大腸がんの可能性がある」です。
では、便潜血陽性のときの大腸がんの確率はどのくらいなのでしょうか?
とても気になると思います。
この記事では、「便潜血陽性のときの大腸がんの確率はどのくらいなの?」という疑問を解決していきます。
この記事の内容
- 便潜血検査の基本的なこと
- 便潜血陽性のときの大腸がんの確率
- 便潜血陽性のときの『早期がん』と『進行がん』の確率
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。
埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。
また、大腸と肛門の専門医であり指導医でもあります。
これまでに便潜血陽性で悩む患者さんを10,000人以上診察してきました。
これを読めば、便潜血陽性のときの大腸がんの確率が分かります。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
それでは始めていきましょう。
便潜血検査の基本的なこと
最初にあなたが受けた便潜血検査について少しだけ簡単に説明します。
血液には図のような赤血球があり、赤血球には血色素と呼ばれるヘモグロビンが含まれています。
そして、ヒトに特有のヘモグロビンをヒトヘモグロビンといいます。
現在検診で一般的に行われている便潜血検査は、
『免疫法』といい、便のヒトヘモグロビンのみに反応する検査です。
このため、食事で食べた動物の肉などに含まれている血液には反応しません。
また、ヘモグロビンは胃酸や膵液などの消化液で変性します。
このため、口・食道・胃・十二指腸などの出血は検出できず、小腸や大腸の出血を検出しています。
しかし、小腸で出血を起こす病気はとてもまれなため、
『便潜血検査≒大腸の出血を検出』とされています。
便潜血陽性のときの大腸がんの確率は?
「検診で便潜血陽性だったけど大腸がんかな?」
便潜血陽性になったときに誰もが一番気になるのは大腸がんの確率だと思います。
検診をしている機関から様々な報告がされていますが、ここでは2020年の厚生労働省のデータをご紹介します。
- 大腸がん検診受診者は331万6896人
- そのうち便潜血陽性の要精密検査者数は20万742人(大腸がん検診受診者の6.1%)
- そのうち精密検査を受けた人は14万920人(便潜血陽性となった人の70.2%)
- 要精密検査を受けて大腸がんが見つかった人は5210人
便潜血陽性で要精密検査と判定された人で大腸がんの確率は、5210/20万742人=2.60%
便潜血陽性で精密検査を受けた人で大腸がんの確率は、5210/14万920人=3.7%
このデータから、
『便潜血陽性のときの大腸がんの確率は約3%』
といえます。
100人中3人を多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれだと思います。
でも、私は「3%はあるかも…」と思うタイプです。
皆さんはいかがでしょうか?
便潜血陽性のときの『早期大腸がん』と『進行大腸がん』の確率は?
大腸がんには『早期がん』と『進行癌』があります。
同じ便潜血陽性でも『早期大腸がん』か『進行大腸がん』かで、
今後の治療方針も変わってきます。
『早期大腸がん』と『進行大腸がん』の違いは?
大腸の壁の厚さは約5mmで、図のような5層の構造になっています。
がんは最初粘膜層にできて、どんどん外側に成長(浸潤)していきます。
早期がんと進行がんは以下のように定義されています。
- 『早期がん』…がんが粘膜下層にとどまるもの
- 『進行がん』…がんが固有より深く浸潤しているもの
ここで注意です!
『進行がん』はあくまでも深さでの分類であって、病気の進行スピードが早いという意味ではありません。
ただ、一般的には『進行がん』ほどリンパ節や遠くの臓器へ病気がひろがるため、
進行度(ステージ)も上がっていきます。
リンパ節に病気が広がる(転移といいます)があるとステージ3、
肺や肝臓など遠くの臓器に転移があるとステージ4となります。
次にステージごとの5年生存率をみてみましょう。
ステージ0の5年生存率は94%ですが、リンパ節へ転移のあるステージ3では80%以下となり、
ステージ4では18.8%で5人に1人しか5年間生きることはできません。
重要なのは、少しでも低いステージで病気を見つけて治療をすることです。
便潜血陽性のときの早期がんと進行がんの確率は?
便潜血陽性のときの大腸がんの確率は約3%とお話ししました。
では、その3%の大腸がんの中で、『早期大腸がん』と『進行大腸がん』の確率は以下の通りです。
- 『早期大腸がん』…約65%
- 『進行大腸がん』…約35%
(過去に報告された5つの論文1)-5)を参考にしています)
ここで、便潜血陽性でクリニックを受診して、精密検査の大腸内視鏡検査をして発見した、早期と進行がんの実際の内視鏡写真を見てみましょう。
下の写真は『早期大腸がん』です。
この患者さんは、日帰りで内視鏡で切除して完治しています。
次に、下の写真は『進行大腸がん』です。
この患者さんは、外科手術が必要なため総合病院の外科へご紹介となりました。
『早期大腸がん』と『進行大腸がん』の治療は?
早期がんの中でも
- 粘膜内に癌がとどまる場合
- 粘膜下層の浅いところに癌がとどまる場合
は、リンパ節転移の可能性が非常に低いため、内視鏡切除での完治が可能です。
しかし、早期がんでも粘膜下層の深いところまでがんが浸潤している場合は、
わずかですがリンパ節転移の可能性があるため、外科手術が必要になります。
進行癌の場合は、すべて外科手術が必要になります。
進行がんでリンパ節転移があるステージ3以上になると、外科手術だけではなく抗がん剤治療も必要となります。
抗がん剤治療は定期的に病院に通う必要があり、
時間的・体力的・精神的・費用的負担を伴います。
便潜血陽性でみつかる大腸がんのうち約65%は早期がんですが、
時間が経過すれば必ず進行がんになります。
そしてステージが上がっていきます。
やはり、早期発見・早期治療が非常に重要です。
「来年の検診で陽性だったら精密検査を受けよう」
と便潜血陽性を放置せず、必ず精密検査を受けてください!
便潜血陽性のときの精密検査について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
便潜血陽性の精密検査は?どの病院を受診?【専門医が徹底解説】
まとめ
ここまで記事を読んでいただきましてありがとうございました。
『便潜血陽性のときの大腸がんの確率』についておわかりただけましたでしょうか。
便潜血陽性のときの大腸がんの確率は約3%で、
そのうち約65%は早期大腸がんです。
早期大腸がんであれば手術が必要なく、内視鏡治療で完治できることもあります。
「たった3%だから自分は大丈夫」と思わず、必ず精密検査を受けてください。
大切なのは、精密検査を受けるということです。
そして、命に関わる大腸がんの早期発見・早期治療につなげることです。
最後に、私からのお願いです。
便潜血陽性になったときは、必ず病院を受診して精密検査を受けてください!
なお、便潜血陽性についてさらに知りたい方は以下の記事をご覧ください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 病気の早期発見・早期治療
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎草加西口大腸肛門クリニック
引用文献
1)魚谷知佳,村俊成.免疫学的便潜血定量値からみた大腸癌危険群.日消集検誌 2003;41(6):588-597
2)島田剛延,千葉隆士,加藤勝章,他.大腸がん検診における適切な要精検率を,どのように考えどう対処すべきか.日消がん検診誌 2017;55(1):31-44
3)福田直子,相良安信,三好宏和,他.大腸癌検診における免疫学的便潜血検査の定量値に関する検討.日消集検誌 2001;39(4):303-306
4)中野真,須田健夫,井上幸万,他.大腸癌個別検診におけるベンヘモグロビン濃度定量値の検討.日消集検誌 2002;40(2):150-154
5)杉山和久,武山直治,芳野純治,他.集団住民検診で発見された大腸癌の検討ー便潜血陰性大腸癌の実態とその対策ー.日消がん検診誌 2007;45(4):439-444