「他の病院で、抗生剤をもらって飲み始めてから下痢をしました」
といってクリニックに来院される方がいらっしゃいます。
せっかくもともとの病気が治っても、今度は下痢でつらくなるのはいやですよね。
抗生剤は細菌をやっつけるための薬ですが、副作用として下痢があります。
抗生剤での下痢は普通の整腸剤では防げません、専用の整腸剤が必要です!
この記事では、「抗生剤で下痢をしたときや予防のときに内服する整腸剤は?」という疑問を解決していきます。
この記事の内容
- 抗生剤、抗生物質、抗菌薬の違い
- 抗生剤で下痢をする理由
- 下痢のときに処方される整腸剤の種類
- 抗生剤で下痢のときの整腸剤の働き
- 抗生剤で下痢のときに処方される整腸剤3つ
- 抗生剤で下痢のときに注意が必要な【薬剤性腸炎】
- 抗生剤で下痢のときの実際の診療
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。
埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。
また、大腸と肛門の専門医であり指導医でもあります。
これまでに下痢で悩む患者さんを10,000人以上診察してきました。
これを読めば、抗生剤と一緒に処方された整腸剤の必要性がわかります。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
それでは始めていきましょう。
抗生剤、抗生物質、抗菌薬の違いは?
まず最初に、抗生剤、抗生物質、抗菌薬は全て同じものです。
細菌に対して使う薬剤で、言い方が違うだけです。
この記事では『抗生剤』で統一してお話をしていきます。
抗生剤で下痢をする理由
クリニックでも、おしりのまわりに細菌感染による炎症が起こって痛みが出た場合に、抗生剤を処方することがあります。
抗生剤は炎症の原因になっている細菌をやっつけてくれますが、同時に血流にのって全身に広がります。
そしてあなたの腸にもともといる腸内細菌を攻撃します。
腸内細菌は絶妙なバランスであなたのお腹を整えています。
抗菌薬によって腸内細菌がやられ、
腸内細菌のバランス(腸内フローラ)がくずれることによって下痢がおこります。
下痢のときに処方される整腸剤の種類
「整腸剤ってどれをのんだらいいんですか?」
「薬局に行ってもいっぱいあって選べなくて…」
クリニックでもよく患者さんから質問を受けます。
薬局に行ったり、WEBで検索すると色々な種類の整腸剤があり、どれを選んでいいか悩みますよね。
下痢のときに病院で処方される整腸剤は、大きく分けて以下の2種類です。
- 生菌製剤
- 耐性乳酸菌製剤
なんだかむずかしい言葉ですね。
わかりやすくすると、
- 生菌製剤…普通の整腸剤
- 耐性乳酸菌製剤…抗生剤に対抗できる特別な整腸剤
となります。
みなさんが薬局やWEBで購入している整腸剤は生菌製剤です。
抗生剤で下痢のときの整腸剤のはたらき
ここからは、耐性乳酸菌製剤の働きをみてきましょう。
抗生剤+普通の整腸剤(生菌製剤)の場合
あなたが抗生剤を内服します。
抗生剤はあなたの腸の腸内細菌叢(腸内フローラ)を作っている腸内細菌を手当たり次第攻撃します。
これにより、腸内細菌叢のバランスがくずれて、下痢をしたり腹痛になったりします。
このときに、普通の整腸剤(生菌製剤)を内服したとします。
生菌製剤も抗生剤に対しての耐性がないので、抗生剤の攻撃を受けてやられてしまいます。
つまり、抗生剤と一緒に普通の整腸剤を内服しても、抗生剤にやられるだけで効果は発揮できません。
通常抗生剤の内服は数日で終了するので、
抗生剤の内服が終了すれば、徐々にもとの腸内細菌叢が形成され、お腹の調子も整っていきます。
抗生剤+耐性乳酸菌製剤の場合
では次に、抗生剤に対抗できる耐性乳酸菌製剤を内服した場合です。
抗生剤と一緒に耐性乳酸菌製剤を内服します。
抗生剤は、あなたの腸内細菌叢(腸内フローラ)を攻撃します。
しかし、耐性乳酸菌製剤は攻撃されないため、あなたの腸内で生き続けます。
そして、生き残った耐性乳酸菌製剤があなたの腸内環境を整えてくれます。
このため下痢や腹痛が起こりにくくなります。
抗生剤の内服が終了すれば、徐々に腸内細菌叢は回復してきます。
抗生剤を処方するときに耐性乳酸菌製剤を処方する理由は、
抗生剤を内服している間のあなたの腸内環境を整え、
下痢や腹痛を起こりにくくするためです。
抗生剤で下痢のときに処方される整腸剤3つ
整腸剤の種類によってどの抗生剤に耐性があるのかがちがってきます。
ここでは、代表的な3つの整腸剤を紹介します。
- ビオフェルミンR
- レベニン
- ラックビーR
この『R』は、『耐性』を示す英語『Resistance』の頭文字のRです。
薬剤名 | ビオフェルミンR | レベニン | ラックビーR |
耐性抗生剤 | ペニシリン系 | ペニシリン系 | ペニシリン系 |
セファロスポリン系 | セファロスポリン系 | セファロスポリン系 | |
アミノグリコシド系 | アミノグリコシド系 | アミノグリコシド系 | |
マクロライド系 | マクロライド系 | マクロライド系 | |
テトラサイクリン系 | テトラサイクリン系 |
実は3つの薬はほとんど一緒です。
ちがいは、ラックビーRだけがテトラサイクリン系という抗生剤に耐性がないというだけです。
私は日頃の診療で抗生剤を処方するときは、だいたいビオフェルミンRを処方しています。
抗生剤で下痢、『薬剤性腸炎』に注意
抗生剤で下痢をしたとき、
抗生物質の下痢はそこまで重症化しませんが、薬剤性腸炎の場合は少し注意が必要です。
代表的な薬剤性腸炎は以下の2つです。
- 急性出血性大腸炎
- 偽膜性大腸炎
それでは、順番にみていきます。
急性出血性大腸炎
「ペニシリン系」や「セフェム系」の抗生剤を服用後2〜3日で、
- 突然の血液が混ざった下痢
- 腹痛
で発症します。
基礎疾患のない、若い世代に起こりやすいのも特徴です。
原因は不明ですが、抗生剤のアレルギーが関係しているといわれています。
原因となる抗生剤を中止することで、通常は1週間程度で治癒します
偽膜性大腸炎
偽膜性大腸炎は、Clostridioides difficile (C. difficile) という細菌が原因でおこります。
院内感染がほとんどを占めるため、クリニックでの診療ではめったに見かけません。
偽膜性大腸炎になりやすい方は、
抗生剤の内服に加え、高齢者やお腹の手術歴、慢性腎臓病、悪性腫瘍の合併などの基礎疾患がある方に起こりやすいとされています。
セフェム系などの抗生剤内服後1〜2週間後に、
- 下痢(ときに血性)
- 発熱
- 腹痛
- 腹部膨満感
で発症します。
最も重症な合併症としては、中毒性巨大結腸症という致死的状況になることもあります。
診断は便検査でC. difficileの毒素を検出したり、抗原検査やPCR検査が行われます。
また、大腸内視鏡検査で、『偽膜』が確認されれば確定診断となります。
治療の基本は原因となる抗生剤の中止で、脱水症状があれば水分補給の点滴を行います。
抗生剤の中止で、症状が改善しない場合には、メトロニダゾールやバンコマイシンといった抗生剤を投与します。
また、高齢者や基礎疾患があり重症化の可能性がある方の場合は、総合病院での治療が必要となります。
抗生剤で下痢のときの草加西口大腸肛門クリニックでの診療
ここからはあなたが抗生剤で下痢をしてクリニックを受診した際の、実際の診療の流れについてお話しします。
まず、問診をおこない、
- 下痢の回数、血便の有無
- 体重減少がないか
- 食事内容やアルコールの摂取
- これまでに治療した病気や現在治療中の病気
- 抗生剤を含めた内服中の薬剤
- ご家族に腸の病気や大腸癌の方がいないか
などをお伺いします。
その後にお腹の診察を行います。
そして、直腸(肛門近くの腸)に病気がある可能性もあるため、
必要に応じておしりの診察を行います。
問診や診察の結果、抗生剤による下痢の可能性が高いと判断した場合、
重症化する可能性もあるため、可能であれば抗生剤の中止を検討します。
ほとんどはこれで改善していきます。
ただ、下痢のほかに出血を伴っている場合や腹痛などの症状が強い場合は状況が変わってきます。
抗生剤の種類によっては、先述の『薬剤性腸炎』という腸炎をおこすこともあり注意が必要です。
まずは、原因と考えられる抗生剤を中止し、必要に応じて便の検査や大腸内視鏡検査を行い、
追加の抗生剤の投与を検討することもあります。
また、高齢者や基礎疾患のある方など重症化の危険のある場合は、総合病院へのご紹介をさせていただきます。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきましてありがとうございました。
「なんで抗生剤と一緒に整腸剤が処方されているんだろう?」
と思っていた方も疑問が解けましたでしょうか。
抗生剤と一緒に整腸剤が処方されていたときは、抗生剤の副作用の下痢を防ぐためにしっかり内服してください。
そして、抗生剤で下痢をしたときの治療の基本は抗生剤を中止することですが、
まずは抗生剤を処方してもらったドクターに相談してみてください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 大腸肛門科を受診する際の不安の軽減
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
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引用文献
- Clostridioides difficile 感染症診療ガイドライン2022.公益社団方針日本化学療法学会・一般社団法人日本感染症学会 CDI診療ガイドライン作成委員会編
- 重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽膜性大腸炎 厚生労働省