「これまで毎年検便ではひっかからなかったのに、はじめてひっかかりました」と、
検診で『便潜血陽性』となり、驚いてクリニックに来院される方は多くいらっしゃいます。
便潜血陽性=大腸がんではありませんのであわてないでください!
あなたの検診結果の用紙には、
- 便検査で血液反応がみられます。医療機関にて大腸の精密検査をお受けください。
- 便潜血検査により異常をみとめましたので、できるだけ早く精密検査を医療機関で受けてください。
- 検便で潜血反応が陽性で、便中に微量の血液の混入がみられます。大腸ポリープなどがないか検査が必要です。
などの【D2:要精密検査】のコメントが書かれていると思います。
検診で行っている便潜血検査の目的は、大腸がんの早期発見です。
ところで、便潜血陽性の原因は大腸がんだけなのでしょうか?
他の胃や十二指腸などの検査はしなくていいのでしょうか?
疑問に思う方もいらっしゃると思います。
この記事では、「便潜血陽性の原因として考えられる病気はなにがあるの?」という疑問を解決していきます。
この記事の内容
- 便潜血陽性の原因として考えるべき病気3つ
この記事の信頼性
この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。
埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。
また、大腸と肛門の専門医であり指導医でもあります。
これまでに便潜血陽性で悩む患者さんを10,000人以上診察してきました。
これを読めば、『便潜血陽性』の時に多い病気と、大腸内視鏡検査を受ける必要性が分かります。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
それでは始めていきましょう。
便潜血陽性の原因として考えるべき病気は?
あなたが、口から肛門までの消化管と呼ばれるどこかの臓器から出血をすれば、
便潜血は陽性になる可能性があります。
つまり、便潜血検査の原因となりうる病気はとてもたくさんありますが、
そもそも目に見える出血をしている人は便潜血検査の対象ではなく、最初から病院での精密検査の対象です。
多くの方は日頃からおしりからの出血の自覚はなく、
検診の一部として便潜血検査を受けると思います。
便潜血検査はその性質上、
- 豚、牛、魚類の血液には反応せず、人の血液のヘモグロビンに反応する
- 胃酸や膵液などの消化液でヘモグロビンが変性するので、口・食道・胃・十二指腸などの出血は検出できない
という特性があり、
小腸や大腸の出血を検出する検査です。
しかし、小腸で出血を起こす病気はとてもまれなため、
『便潜血検査≒大腸の出血を検出』とされています。
つまり、便潜血陽性の原因と考えるべき病気は、
- 大腸の病気で、
- 日頃は目に見えないくらいの出血をする可能性のある病気
となります。
便潜血陽性の原因で考えるべき3つの病気
目に見えるような出血がなく、
検診で便潜血陽性となった際に考えるべき病気は以下の3つです
- 痔
- 大腸ポリープ
- 大腸がん
それぞれ順番に少し詳しく説明していきます。
さらに【補足】として、便潜血検査を受ける年代で可能性のある腸炎の中で『潰瘍性大腸炎』について説明をします。
1.痔(いぼ痔、切れ痔)
過去に便潜血陽性で、精密検査で大腸内視鏡検査をうけて異常がなく、
検査を担当した医師から、
「大腸は大丈夫ですよ、おそらく痔からの出血ですね」
と言われた人は多いと思います。
便潜血陽性で、大腸内視鏡検査をして約70%の人は、大腸がんや大腸ポリープがなく、
ほとんどは『痔』が原因で便潜血陽性になっていると考えられます。
『痔』の中で目に見えるような出血がなく、
便潜血陽性になる可能性のある痔は2つです。
- 内痔核(内側のいぼ痔)
- 裂肛(切れ痔)
それぞれみていきましょう。
内痔核(内側のいぼ痔)
肛門の内側のいぼ痔を内痔核といいます。
内痔核は肛門からの脱出の程度により、以下の4段階に分けられます。
内痔核の脱出の程度 | その内容 |
1度 | 便を出す時にほとんど脱出しない |
2度 | 便を出す時に脱出するが自然に戻る |
3度 | 便を出す時に脱出して指で押さないと戻らない |
4度 | 便を出す時以外でも常に脱出している |
ひどくなると肛門から飛び出してきますが、
初期の段階は脱出はしないので、痔があることすら気づきません。
そのため、便潜血陽性のほとんどの方は、1度の内痔核が原因になっていると考えられます。
脱出や目に見える出血はないけど、便潜血でたまたま陽性になったパターンです。
しかし、生活に支障をきたしていないので、痔に対する治療の必要はありません。
この先生活していく中で、脱出や出血で生活に支障がある場合には、肛門科を受診して相談してみてください。
裂肛(切れ痔)
「便秘をして便が硬くて、おしりが切れました…」
といってクリニックを受診される方は多いです。
だれしも硬い便をした時におしりがピリッとしたり、
トイレットペーパーにわずかに血液がついた経験はあるのではないでしょうか?
便潜血陽性で何もなかった方の中には切れ痔の方も多いと思います。
切れ痔の場合は痛みを伴うことが多いですが、中には痛みのない切れ痔の方もいます。
痛みはないけど、目に見えないくらいの出血をしているため、便潜血陽性になったパターンです。
痛みなどで生活に支障をきたしていなければ、切れ痔に対する治療の必要はありません。
2.大腸ポリープ
便潜血陽性の約30%は大腸ポリープが原因です。
初めてクリニックにいらっしゃる方の中にも、
「過去に大腸ポリープを切除したことがあります」という方はたくさんいらっしゃいます。
私も先日、大腸内視鏡検査で約10mmのポリープを切除してもらいました。
「大腸ポリープ」という言葉は、大腸粘膜にできたもりあがったものの総称です。
このため、厳密には良性から悪性の癌まで全て大腸ポリープになります。
しかし、実際の診療では上の図のように良性のポリープの中でも
特に癌の元になる『腺腫(せんしゅ)』のことを大腸ポリープと呼ぶことが多いです。
腺腫は腫瘍性の病変で長年放置すると大きくなり、がん細胞が混ざってきます。
つまり、『腺腫=がんのもと』と考えられます。
20mm以上の腺腫では約30%にがん細胞が混ざってきます。
10mm未満の腺腫のうちに内視鏡で切除できれば、あなたの体に癌ができるのを防ぐことができます。
大腸がんを予防できるチャンスです!
実は、先日とってもらった私のポリープも『腺腫』でした。
発見してくれたドクターに感謝をするとともに、がんを予防できたことに安心しました。
大腸がんを予防できるチャンスを逃さないように、便潜血陽性のときは大腸内視鏡検査を受けてください。
3.大腸がん
便潜血陽性の約3%は『大腸がん』が原因です。
大腸がんは進行するまで目に見える出血はしません。
そして一言で『大腸がん』といっても進行度(ステージ)は様々です。
上の写真のように早期の大腸がんであれば日帰りで内視鏡で切除できます。
しかし、下の写真のように進行しているものでは入院して外科手術が必要になります。
さらに進行度によっては抗がん剤治療が必要となり、
体力的・精神的負担だけでなく時間や費用も必要となります。
「数年前から便潜血陽性だったけど、精密検査を受けていませんでした」
と来院される方の場合、内視鏡をして写真のような進行がんが見つかることが多いです。
少しでも早期で発見できるように、
可能であれば『がんのもと』の腺腫で発見して内視鏡で切除できるように、
便潜血陽性の時は必ず大腸内視鏡検査を受けてください。
【補足】潰瘍性大腸炎
最後に便潜血検査を受ける年代で起こりうる『潰瘍性大腸炎』について説明をします。
『腸炎』には感染性から感染と関係のないものまで、非常に多くの病気があります。
多くは下痢や腹痛などの症状があり、炎症がひどいと出血もしてきます。
食あたりで下痢をした経験がある方はいらっしゃると思います。
下痢や腹痛などの症状がない「こっそりおこっている腸炎」というのはほとんどありません。
可能性としてあるのは、『潰瘍性大腸炎』です。
潰瘍性大腸炎は20歳〜30歳に多い、大腸に炎症をおこす病気です。
治療法が見つかっていないので、厚生労働省から難病に指定されています。
若い方に多いのですが、50歳以上で発症することもあります。
潰瘍性大腸炎は一般的に下痢・血便・腹痛などを伴います。
しかし、便潜血陽性で偶然見つかるような潰瘍性大腸炎はほとんど症状はないはずです。
潰瘍性大腸炎はがんと違って悪性の病気ではありません。
生活に支障をきたしていない場合は、患者さんとよく相談をしながら治療を検討していきます。
まとめ
ここまで記事を読んでいただきましてありがとうございました。
便潜血陽性の原因はほとんどが痔からの出血です。
しかし、30%は『がんのもとの腺腫』を含む大腸ポリープ、3%は『大腸がん』からの出血です。
がんになる前の腺腫の状態で内視鏡で切除できれば、大腸がんの予防になります。
さらに内視鏡で早期に治療ができれば、あなたやあなたを支える人の、
身体的・精神的・時間的・費用的なさまざまな負担を回避できます。
私からのお願いです。
便潜血陽性になったときは、「痔からの出血だろう」と思わずに、必ず大腸内視鏡検査を受けてください!
大腸がんのもとになる病気を見つけるチャンスを逃さないでください!
なお、便潜血陽性についてさらに知りたい方は以下の記事をご覧ください。
この記事が、
- 皆様の健康維持
- 病気の早期発見・早期治療
これらのためにお役に立てれば幸いです。
『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)
草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎草加西口大腸肛門クリニック