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直腸脱の症状・原因・治療、脱肛と違いは?【専門医が徹底解説】

「最近、おしりから何かでてくるけど痔かな?」と思っている方はいらっしゃいませんか?

直腸脱という言葉を聞いたことはありますか?

「痔かと思っていたら、実は直腸脱だった」という患者さんも少なくありません。

この記事では、直腸脱の症状や原因、治療法について専門医の視点から分かりやすく解説します。

特に、痔(脱肛)との違いが気になる方のために、違いについても詳しく説明していきます。

この記事の内容

  • 直腸脱とは?
  • 直腸脱の症状・原因は?
  • 直腸脱と脱肛(いぼ痔)との違いは?

この記事の信頼性

この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。

この記事を読めば、『直腸脱について一通り』の理解が深まり、適切な対処のきっかけになります。

『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』

それでは始めていきましょう。

この記事は、草加西口大腸肛門クリニックの院長が専門医の立場から執筆しています

目次

直腸脱とは?

直腸脱とは、直腸の一部または全体が肛門を通じて外に飛び出してしまう状態のことです。特に高齢女性に多く見られます。

直腸脱には、以下の2つの種類があります。

  • 完全直腸脱:直腸の全層が脱出する。
  • 不完全直腸脱:粘膜のみが脱出する。

直腸脱の原因

直腸脱の主な原因は、

  • 加齢に伴う骨盤底筋群の緩み
  • 慢性的な便秘
  • 強いいきみ
  • 妊娠・出産
  • 肥満

などがあげられます。

これらの要因が重なり、直腸を周囲から支える組織が弱くなることで発症します。

直腸脱の症状

直腸脱の主な症状は以下のとおりです。

  • 直腸の脱出
  • 便もれ
  • 排便障害
  • 肛門部の違和感や痛み
  • 排尿障害
  • 出血
  • 粘液の排出

最初は、排便で強くいきんだときに肛門から脱出して、いきむのをやめると自然に戻ります。

病状が進んでくると、歩いている時や入浴中などにも脱出するようになり、手で戻さないと戻らなくなります。

こうなると日常生活に支障がでてきてしまいます。

脱出の程度は数cmから10cm以上となることあり、脱出して戻らないため、クリニックを受診される方もいらっしゃいます。

脱出して自分で戻せない場合は、肛門科や外科のある病院を受診してください。

症状が進行すると、日常生活にも支障をきたすようになるため、早めの診察が重要です!

直腸脱と脱肛の違い

直腸脱と間違えやすい病気に「脱肛(いぼ痔)」があります。

イラストにすると下の図です。

直腸脱は、腸が円筒状に脱出してきますが、

いぼ痔は、部分的に出てきます。

ただし、いぼ痔が複数個出てくると、肛門が全体的に脱出する感じになり、直腸脱との区別が難しくなります。

2つの違いを表にまとめました。

直腸脱脱肛(いぼ痔)
原因直腸を支える筋肉の緩み肛門の静脈叢が腫れる
脱出部位直腸全体または粘膜痔核(腫れた血管)
戻し方手で押し込んでもすぐに脱出することが多い自然に戻る
手で押せば戻ることが多い
治療方法手術軟膏・注射・手術

「おしりから何かが出てくる」というおなじ症状であっても、

それが直腸脱なのか脱肛なのか正しい診断のためには、専門医の診察が必要です。

直腸脱の診断方法

直腸脱の診断は、以下の方法で行います。

  • 問診と視診:症状を詳しく伺い、視診で脱出の有無を確認します。
  • 直腸診:指を使って直腸の状態を確認します。
  • トイレ診察:トイレで排便時のようにいきんでもらい、直腸がどの程度脱出するかを観察します。

しかし、診察の時にいきんでも脱出しない場合もあります。

診断で一番確実なのは、脱出した様子をスマホで写真に撮っていただくことです。

ご自身として、「最もとびでてるな」という状況を、正面や横など角度を変えて何枚か写真を撮っていただけるとベストです!

直腸脱の治療方法

直腸脱の治療は、大きく保存的療法(手術なし)と外科的療法(手術)に分かれます。

保存的治療(手術以外の治療)

直腸脱を治す薬はありませんが、がんと違って命に関わるここともありません。

このため、直腸脱があるから絶対に手術が必要というわけではありません。

軽度の直腸脱の場合には、それ以上症状を進行させないため、

  • 便秘の予防と治療
  • 排便時にいきみすぎないように気をつける

それでも脱出の程度がひどく、生活に支障をきたす場合は、手術が必要となります。

外科治療(手術)

手術は主に「経会陰手術(肛門から行う手術)」と「経腹手術」の2種類があります。

経肛門手術(腰椎麻酔で行う手術)

経肛門的に行う手術は以下の3つがあります。

  • Gant-三輪-Thiersch(GMT)法
  • Delorme(デロルメ)法
  • Altemeier(アルテマイヤー)

どの術式を選択するかは、脱出の程度や患者さんの全身状態などによります。

腰椎麻酔で行う手術は、体への負担が少ないので、全身麻酔のリスクがある人にも適応があります。

しかし、再発率が高いのがデメリットです。

経腹手術(全身麻酔で行う手術)

  • 腹腔鏡下直腸固定術

全身麻酔をかけ、腹腔鏡による手術を行います。肛門から脱出する腸をつり上げて、仙骨前面にメッシュなどで固定する方法です。

以前の腹部手術の影響による癒着などで、腹腔鏡手術が難しい場合は、開腹で行うこともあります。

直腸固定術は再発率が低く、長期的な効果が期待できるため、

全身麻酔をかけられる方の場合は、第一選択となります。

日本のガイドラインに基づく推奨手術治療

日本のガイドラインでは、

  • 全身麻酔が可能であれば、経腹手術(腹腔鏡)
  • 全身麻酔ができない場合は、脱出している直腸の長さ(5cmを基準)により手術方法を選ぶ

とされています。

あとは、それぞれの施設でどこまでの手術ができるかにもよります。

直腸脱に関するQ&A

直腸脱かもしれないのですが、何科を受診したらいいですか?

大腸肛門科がベストですが、お近くになければ外科の病院を受診してください。

直腸脱は自然に治りますか?

自然に治ることはなく、基本的には手術が必要です。

直腸脱は高齢者のみにおこりますか?

若い人、たとえば20歳代でも起こりえます。

直腸脱は男性にもおこりますか?

女性に多いですが、男性でも発症することがあります。

直腸脱を予防する方法はありますか?

便秘を防いだり、骨盤底筋を鍛えることが有効です。

直腸脱の手術はどこで受けることができますか?

専門の病院で受けることができます。当クリニックでも手術可能な病院をご紹介できますのでご安心ください。

まとめ

ここまで記事を読んでいただきましてありがとうございました。

『直腸脱の診断・原因・治療、脱肛との違い』についておわかりいただけましたでしょうか。

直腸脱は癌のと違い、命に関わらない病気ですが、脱出の程度によっては生活に支障をきたしてきます。

完治のためには手術が必要となります。

「痔の脱出なのかな?」とお一人で悩まずに、

まずは、あなたの状態が直腸脱なのかどうか、専門医の診察を受けてください。

この記事が

  • 皆様の健康維持
  • 皆様の病気の早期発見・早期治療
  • 皆様が大腸肛門科を受診する際の不安の軽減

これらのためにお役に立てれば幸いです。

『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』

草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)

当院の診療について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください

参考文献

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この記事を書いた人

大腸肛門科医
【経歴】弘前大学医学部卒業▶︎横浜市立大学研修医▶︎神奈川県立がんセンター・大腸外科▶︎社会保険中央総合病院・大腸肛門病センター▶︎2018年から草加西口大腸肛門クリニック院長
●診療理念『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
●大腸とおしりの悩みを解決します!

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