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妊娠中の便潜血陽性、原因と対処法は?【専門医が徹底解説】

「妊娠中なんですけど、便潜血検査が陽性で…どうしたらいいでしょう?」

妊娠中に便潜血検査が陽性になったら不安になりますよね。

「痔からの出血かな?」

「大腸カメラ受けていいのかな?」

「大腸がんじゃないよね…」

様々な思いがが頭をよぎると思います。

この記事では、「妊娠中に便潜血陽性になったけど、考えられる原因は?どう対処したらいいの?」という疑問を解決していきます。

記事の内容

  • 便潜血検査の基本的なこと
  • 妊娠中の便潜血陽性の原因
  • 妊娠中の便潜血陽性の原因で痔が多い理由
  • 妊娠中の便潜血陽性で最も注意する病気【大腸がん】
  • 妊娠中の便潜血陽性の時の対処法【当院での実際の診療】
  • 恥ずかしくないおしりの診察

この記事の信頼性

この記事を書いた私の名前は「金澤 周(かなざわ あまね)」です。

埼玉県草加市にある、草加西口大腸肛門クリニックの院長です。

また、大腸と肛門の専門医であり指導医でもあります。

これまでに便潜血陽性で悩む患者さんを10,000人以上診察してきました。

この記事を読めば、今あなたがどうしたらいいのかがわかります!

『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』

それでは始めていきましょう。

なお、現在おしりから目に見える出血のある方は診察が必要です。

放置せずに、病院を受診してください。

おしりからの出血がある方は以下の記事をご参照ください。

妊娠中の血便やおしりのトラブルの対処法【専門医が徹底解説】

目次

便潜血検査の基本的なこと

まずは、あなたが受けた便潜血検査について説明をしていきます。

血液には図のような赤血球があり、赤血球には血色素と呼ばれるヘモグロビンが含まれています。

そして、ヒトに特有のヘモグロビンをヒトヘモグロビンといいます。

現在検診で一般的に行われている便潜血検査は、

『免疫法』といい、便のヒトヘモグロビンのみに反応する検査です。

このため、食事で食べた動物の肉などに含まれている血液には反応しません。

また、ヘモグロビンは胃酸や膵液などの消化液で変性します。

このため、口・食道・胃・十二指腸などの出血は検出できず、小腸や大腸の出血を検出しています。

しかし、小腸で出血を起こす病気はとてもまれなため、

『便潜血検査≒大腸の出血を検出』とされています。

ただ、肛門に出血をするような病気があれば、便潜血検査は陽性となります。

妊娠中の便潜血陽性の原因は?

「便潜血検査が陽性になりました、大腸がんでしょうか?」

とあわててクリニックを受診される妊婦さんがいらっしゃいます。

便潜血陽性=大腸がんではありませんので、安心してください。

正しくは、便潜血陽性=大腸がんの可能性があるです。

便潜血陽性の原因の約3%は大腸がん、約30%は大腸ポリープ、そして残りの約70%は痔を含むその他の病気と言われています。

一般的な便潜血陽性の原因について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

便潜血陽性の原因はこの3つ!【専門医が徹底解説】

このデータは便潜血検査を受けた全年齢を対象にしたものです。

一般的に、大腸がんや大腸がんの元になる腺腫というポリープは40歳以降になるとできやすくなってきます。

妊婦さんの年齢層を考えると大腸がんの可能性は約3%よりも低くなると考えられます。

結果的に妊娠中には、大腸がんや大腸ポリープ以外の原因の割合が増えるといえます。

妊娠中の便潜血陽性の原因で痔が多い理由は?

一般的に、妊娠中には痔が悪化することが多いです。

妊娠中の痔で便潜血陽性の原因となりうるのは『内痔核(内側のいぼ痔)』と『裂肛(切れ痔)』です。

妊娠中に痔が悪化する要因として、

  • 妊娠中のむくみ
  • 妊娠中の便秘

の2つのからだの変化があります。

【原因1】妊娠中のむくみ

妊娠中期から後期にかけて体がむくみやすくなってきます。

体全体がむくむので痔の組織も例外ではありません。

これには『体液量や血流量の増加』と『子宮の増大による血液のうっ滞』が関係しています。

体液量や血流量の増加

妊娠中は胎児に栄養や酸素を届け、出産時の出血に備えるために、体液量や血流量が増加します。

体全体の体液量や血流量が増えることで、痔へ行く血流量も増えます。

これにより先ほどの図のように内痔核が腫れやすくなったり、

外側の血栓性外痔核ができやすくなったりします。

妊娠による子宮の増大による血液のうっ滞

妊娠中期〜妊娠後期は胎児の成長とともに子宮が大きくなります。

大きくなった子宮によって心臓に血液を戻す静脈が圧迫されて、

足や骨盤部に血液がうっ滞します。

足のむくみだけでなく、骨盤部もむくみ、痔の組織もむくんで腫れます。

【原因2】妊娠中の便秘

妊娠中には『プロゲステロン(黄体ホルモン)』という女性ホルモンの分泌が増えます。

プロゲステロンは、腸の動きを抑える作用があり、便秘になりやすくなります。

生理前に便秘になりやすいのもプロゲステロンが増えることが原因です。

便秘になることで、排便時に長時間強くいきむようになり、痔がうっ血して腫れます。

妊娠中に痔を悪化させないために、『トイレでいきむのは5分以内』にしてください

5分たっても便が出ない時は、一度トイレから出ましょう。

そして、またトイレに行きたくなったら行きましょう。

便意がないのに、むりやり便を出そうといきまないようにしてください。

便秘になった時は、食事内容の見直しが必要ですし、

場合によっては薬でコントロールをした方が生活が楽に送れます。

便秘気味の方は、まずは通院中の産科で相談してみてください。

妊娠中の便潜血陽性で最も注意する病気【大腸がん】

妊娠中の便潜血陽性の原因は痔のことが多いです。

でも痔以外の病気のこともあるので、注意は必要です。

日頃下痢や出血や腹痛などの自覚症状がなく、妊娠中の便潜血陽性で最も注意すべき病気は『大腸がん』です。

【早期大腸がんの内視鏡写真】

『大腸がん』以外の病気は命にかかわりません。

私も日々、大腸がんの可能性がないかに神経を集中させて診療をしています。

最初にお話ししましたが、

一般的に便潜血陽性のときの大腸がんの可能性は約3%です。

妊婦さんの年齢層に限った場合は、3%よりさらに確率は低くなると考えられます。

でもゼロにはなりません。

妊娠中に便潜血陽性のときの対処法は?

ここまで記事を読んでいただいて、

「結局、妊娠中に便潜血陽性になったらどうしたらいいの?」

と思われているでしょう。

まず最初にお伝えしておきますが、

妊娠中の便潜血陽性の時の対処法の正解はありません。

ただこれでは答えになりませんので、

妊娠中の内視鏡のリスクや、私が考える対処法について説明していきます。

妊娠中の内視鏡検査のリスクは?

一般的に、便潜血陽性のときの精密検査の第一選択は大腸内視鏡検査になります。

便潜血陽性のときの精密検査の詳細については以下の記事をご参照ください。

便潜血陽性の精密検査は?どの病院を受診?【専門医が徹底解説】

「妊娠中」「大腸内視鏡検査」とWEBでいろいろ検索しても、

「妊娠中の内視鏡はできるだけ避けるのが望ましい」

といった内容の記述が多いと思います。

これは、内視鏡検査による母体および胎児への安全性がはっきりしていないからです。

2017年に発表されたスウェーデンの論文では、

『妊娠中に消化器内視鏡検査を受けた女性は、受けなかった女性に比較して、

早産のリスクが1.54倍高く、子宮内胎児発育不全のリスクは1.30倍高かったが、

死産と先天奇形への明らかな影響は認められなかった』

と報告をしています。

この報告からも妊娠中の内視鏡検査のリスクは少なからずあるといえます。

妊娠中に内視鏡検査を受ける必要があるのは、内視鏡検査を受けるメリットがリスクを上回るときです。

具体的には、日頃出血や下痢などの症状がひどく、大腸がんをはじめとする大腸の病気が疑われる場合には大腸内視鏡検査は必要になります。

どうしても大腸内視鏡検査が必要な場合には、産科、小児科、消化器内科などの診療科がある総合病院で検査を受けていただくのが安全です。

私が考える妊娠中の便潜血陽性の際の対処法

ここからは私が考える妊娠中の便潜血陽性の際の対処法について述べていきます。

これは、大腸肛門科医としての視点で見た対処法の1つです。

完全に正解ではないかもしれませんが、一つの方法ではあると思います。

実際に妊婦さんがクリニックを受診した状況ですすめていきます。

【草加西口大腸肛門クリニック】
  • 32歳女性
  • 妊娠12週で経過は良好
  • 妊娠前に受けた会社の検診で便潜血陽性(+、ー)
  • 日頃おしりから目に見える出血なし
  • 下痢や腹痛はない
  • これまで大腸内視鏡検査は受けたことがない
  • 大腸がんの家族歴はない

問診で以上のことがわかりました。

便潜血陽性となったこと以外は特に日頃から変わったことはないようです。

お話を聴いた後に、おしりから指の届く範囲で病気がないかを調べるため、おしりの診察をします。

詳しいおしりの診察は後のページで説明します。

おしりの診察では、直腸の指の届く範囲での病気は触れず、出血もありませんでした。

肛門鏡という専用の器械を使った診察では、非常に軽度の内痔核がありましたが、見える範囲の直腸の粘膜に炎症などはありませんでした。

以上の診察からいえることは、

『指の届く範囲や見える範囲に病気はなく、目に見えない程度の痔からの出血で便潜血陽性になった可能性はあるが、指の届く範囲より奥の大腸の病気についてはわからない』

ということです。

このあと、私は妊婦さんに以下のように説明します。

【おしりの診察後の説明】

「現在、目に見えるような出血はなく、下痢や腹痛などの症状もなく、診察でも大きな異常はありません。

便潜血陽性のときの精密検査の第一選択は大腸内視鏡検査ですが、

少なからず早産や子宮内胎児発育不全のリスクが報告されており、

現在の状況では積極的に内視鏡検査をおすすめはしません。

妊娠出産が落ち着いて体の状態が落ち着いた後に、できるだけ早めに検査を受けてください。

ただ、妊娠の途中でおしりから明らかな出血をするようになった場合や、ひどい下痢をするようになった場合は、精密検査が必要な場合もあるので必ず再受診をしてください。

もし内視鏡検査による精密検査が必要と判断した場合は、こちらのクリニックでは安全な検査は難しいため、

産科、小児科のある総合病院へご紹介をさせていただきます。」

大切なのは病院を受診して診察を受けることです!

私のクリニックに便潜血陽性の妊婦さんが受診した際の一例をお話ししました。

大切なのは、

「たぶん痔からかな…」などと自己判断をせずに、病院を受診して診察を受けることです。

日頃から便潜血陽性や血便の患者さんの診察をしている医師であれば、

あなたのわずかな危険のサインも見つけてくれる可能性があります。

また、途中で出血や下痢などの症状が出たときは必ず再受診をしてください。

そして、妊娠出産がひと段落して体の状態が落ち着いたら必ず大腸内視鏡検査を受けてください!

私も、あなたが妊娠中という特別な状況でなければ、大腸内視鏡検査をお勧めしています。

妊娠中の便潜血陽性のときのはずかしくないおしりの診察

ここからは私のクリニックでの実際のおしりの診察のながれを説明していきます。

【草加西口大腸肛門クリニックの診察室】

「おしりの診察」というとだれもが恥ずかしさと不安でいっぱいだと思います。

「どういうふうに診察をするのかが分からないので不安です…」

実際に問診の際にはこのような声をよくお聞きします。

草加西口大腸肛門クリニックでは患者さんが恥ずかしくないようにプライバシーに最大限配慮したおしりの診察を心がけています。

当院でのおしりの診察の手順は以下のとおりです。 

① カーテンの中でズボンや下着をおしりが見えるくらいまで下ろして診察台に横になっていただきます。

② おしりに清潔なシートをかけた後に、看護師が体の位置とシートの位置を調整いたします。

これで診察の準備が完了です。

【おしりの診察の体勢】

③ 視診察(見て観察)をします。

④ 指診察(指で診察)をします。

⑤ 肛門鏡(痔の様子などを詳しく観察できる特殊な器械)で診察をします。

【おしりの診察に使う肛門鏡】

⑥ 診察が終わりましたらカーテンの中でゆっくりお着替えをしていただきます。

おしりの診察のながれは以上です。

診察時間は1〜2分程度です。

診察の間は、女性スタッフがすぐそばにおりますので安心して診察を受けていただけます。

まとめ

ここまで記事を読んでいただきましてありがとうございました。

妊娠中という特別な状況での便潜血陽性は誰でもとても不安になると思います。

まわりに相談できる人がない場合はなおさらですよね。

でも、ひとりで不安をかかえ悩まないでください。

不安を感じたらそのまま放置せず、まずはかかりつけの産科の先生や大腸肛門科や消化器内科で相談をしてみてください。

なお、便潜血陽性についてさらに知りたい方は以下の記事をご覧ください。

【便潜血陽性】のときの疑問と対処法を【専門医が徹底解説】

この記事が、

  • 皆様の健康維持
  • 皆様の病気の早期発見・早期治療
  • 皆様が肛門科を受診する際の不安の軽減

これらのためにお役に立てれば幸いです。

『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』

草加西口大腸肛門クリニック 院長 金澤 周(かなざわ あまね)

草加西口大腸肛門クリニックのHPはこちら▶︎▶︎▶︎草加西口大腸肛門クリニック

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この記事を書いた人

大腸肛門科医
【経歴】弘前大学医学部卒業▶︎横浜市立大学研修医▶︎神奈川県立がんセンター・大腸外科▶︎社会保険中央総合病院・大腸肛門病センター▶︎2018年から草加西口大腸肛門クリニック院長
●診療理念『あなたとあなたの大切な人の健康と未来を守るために』
●大腸とおしりの悩みを解決します!

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